「うし」の「まきもの」(その二)
塀をこえると、お堀がある。お堀の上に、橋はない。
かわりにあるのが、一本の綱だ。
その綱の上を、忍者たちが走っていく。「綱わたり」だ。
もしも、綱から落ちれば、水の中。
しかし、忍者たちは綱の上を、かっこよくわたっていく。
「忍者は近道が好きなのです」
忍者大将はくり返す。
今のところ、だれも水の中には落ちていない。
のこり三人だ。
この三人は、他の忍者たちとちがっていた。
三人とも手に、長い竹を持っている。
三人の忍者が、綱をわたり始めた。
ところが、途中で立ち止まる。
二つの丘では、
「みなさーん、あの三人にご注目でござるー!」
忍者がさけぶ。
そのあとだ。
いきなり三人とも、水の中に落ちた。どぼん、どぼん、どぼん。
うっかり足をすべらせたのかと思ったら、
「あの三人は、水の中をきれいにする係でござる」
忍者が説明する。
持っていた竹は、水の中で息をするためだ。
あれを口にくわえて、水の外にある空気をすう。
丘の上から目をこらすと、本当だ。
竹の先っぽが三つとも、水の外に出ている。
「もしも、あの三人の前にわたる忍者が、水の中に落ちていたら、こう言っていたでござる」
説明係の忍者は、にっこりすると、
「あの忍者は、水の中をきれいにする係でござる」
本当はちがうけれど、もしもの時には、そうやってごまかすのだ。




