『恋って、甘えてもいいものですか?』
LinkLiveの大型企画が発表された。
タイトルは《#即興恋愛ロールプレイ》。
男女ペアで即席の恋愛ドラマを配信し、演技力と化学反応で視聴者をときめかせるというものだ。
ペアは抽選。
けれど、視聴者がどこかで“仕組まれているのでは”と疑うほど、絶妙な組み合わせが発表された。
──レイ&Inori∞Link。
瞬間、X(旧Twitter)のトレンドに「#先いのペア」が急上昇。
「絶対尊い」「やばい、絶対事故る」「年齢差カップル最高」のタグが並ぶ。
だが、本人たちはもっと静かだった。
「……やるしか、ないですね」
「大丈夫? 無理そうなら、交代してもらって──」
「……嫌じゃないです」
「?」
「むしろ……この機会、逃したくないです」
配信当日。
舞台は“放課後の教室”。
レイ(コウ)が先にログインし、黒板前でアバターを立たせる。
そこに、白と赤の制服風にアレンジされた《いのり》の新衣装が登場する。
静かに教室へ入ってきた彼女は、少しだけ視線を伏せて言う。
《先輩、また……一緒に帰ってくれますか?》
コメント欄は瞬間的に爆発。
「はい死んだ」「これは犯罪です」「甘えた声かわいい」
視聴者はすでに現実に戻れない。
即興ロールプレイは進んでいく。
お弁当を交換したり、鞄を持ち合ったり、
帰り道に肩が触れてドキッとしたり。
流れるように進む演技の中に、ふとした“素”が混じるたび、視聴者は息を呑む。
──それは“キャラの演技”じゃない。
それは、あの“泣いた夜”以降、ふたりが育ててきた“本当の関係”。
そして、ラストシーン。
放課後の教室。
レイがふと口にする。
《なあ……いのりって、さ。好きな人……いる?》
一瞬、沈黙。
視聴者の呼吸まで止まったかのような、緊張の間。
──そのときだった。
彼女のアバターが、そっと椅子に腰掛け、手を膝に重ねた。
そして、静かに語り始めた。
《……います》
《でも、その人は……きっと、わたしのことを“子ども”だって思ってます》
《完璧じゃなきゃ、誰にも相手にされないって……ずっとそう思ってきたから、怖くて、ずっと黙ってました》
《でも──》
いのりの声が震える。
けれど、それは“演技”ではなかった。
《その人は、泣いたわたしを笑わなかったんです》
《弱くて、情けなくて、“すごくない自分”を、ちゃんと見てくれた》
《その人がいたから、わたしは……“わたし”のままで、ここにいられる》
《だから……恋って、甘えてもいいものだって、やっと思えるようになったんです》
《……甘えたら、嫌いになりますか?》
コメント欄は、もはや言葉にならない。
「やばい」「リアルすぎる」「これガチだ」「泣いた」
──画面越しの恋の告白。
たとえ演技の形をとっていても、それは誰の目にも“本気”だった。
配信は、大団円で幕を閉じる。
終わった直後、事務所ラウンジではスタッフたちが口を揃える。
「これ……演技に見えたか?」
「無理無理。ガチで恋してるでしょ、あれは」
ひよりはニヤリと笑ってコウの背中を叩く。
「どうすんの? あんな全力で言われてさ。……逃げられないよ?」
「……俺、何も言ってないけど」
「“何も言わない”が一番残酷なんだよ、コウにい」
コウは、苦笑した。
でも──その内心では、確かに何かが動いていた。
あの告白を、“ただの演技”としてスルーするほど、もう鈍くはいられない。
その夜。
また、通話が繋がった。
「先輩、今日の……どうでした?」
「……すごかったよ。驚いた」
「ふふ、よかった」
「演技、上手いんだなって」
「……それ、ぜんぶ演技だったと思います?」
「……そうじゃないよな」
「……うん。じゃあ、先輩もちゃんと、答えを考えておいてくださいね」
「……答え?」
「高校生になったら、デートしてくださいって。あれ、本気で言ってますから」
その声は、どこまでも静かで、優しくて、真剣だった。
画面越しでも──
いのりの想いは、しっかりとコウに届いていた。




