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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第12章 『完璧なわたしを、壊してくれますか』

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『涙が出るくらい、怖かった』

──LinkLive主催《深夜ホラーリレー》、最終日。

大トリは、《Inori∞Link》こと橘いのり。

配信開始時刻は深夜2時30分。


その日、いのりが挑戦するのは、ホラー配信界隈でも“ガチで来る”と評判のインディー作品──

廃村の記録映像を元に作られた、超リアル心理型ホラー『ひとりごと -Whispers-』。


初見実況、事前情報なし、スタッフも演出には一切手出しできない。

演者の“生の反応”が試される一本だ。


 


《こんばんは、Inori∞Linkです。今日も深夜に来てくれて、ありがとうございます》


いのりはいつものように、穏やかな声で配信を始めた。

巫女衣装のアバターが微笑むたび、コメント欄は称賛の嵐。


「この声で怖がってくれるとか神回確定」「落ち着いてるのに可愛い」「大人の余裕って感じ」


だが、彼女の両手は、マウスとキーボードの上でほんのわずかに震えていた。


──本当は怖い。けれど、それを表に出せない。

“完璧なわたし”でいるために。


ゲームが進行するにつれ、空気がじわじわと重くなる。

視界が揺れ、音が濁り、登場人物の幻聴が聞こえるようになる。

プレイヤーの感情を、恐怖ではなく“不安”で削ってくるタイプの作品だった。


《……ぁ……》

小さな吐息のような音。


その瞬間、ゲーム内の映像が一瞬ブラックアウトし、画面に現れたのは“自分の顔”だった。

まるでプレイヤー自身を見ているかのような演出。


そこで、いのりの指が止まった。


《……》

沈黙。

静寂。

コメント欄に「?」「止まった?」「フリーズ?」と流れる。


そして数秒後、いのりの声がマイクに乗った。


《……すみません……ちょっとだけ、怖いです……》


その言葉に、視聴者は息を呑んだ。


──“怖い”と認めたのは、彼女にとって初めてだった。


それでも彼女は配信を切らなかった。

手を震わせながら、ゲームを進めようとした。

だけど、画面の中で“もう一人の自分”が小さく囁く。


「……やっと、本音が聞けた」


瞬間、パソコンの前のいのりの目から、ぽろりと涙が落ちた。

カメラは彼女のアバターを映し続けていたが、声の震えが、すべてを語っていた。


《……やだ、なにこれ……怖い……怖い……》


《……助けて……誰か……》


その小さな声は、完璧だったはずの彼女の仮面を、はっきりと壊していた。


コメント欄は一転して、応援と心配の嵐。

「無理しないで」「泣いていいんだよ」「いのりちゃん、頑張ってるよ!」


 


配信裏。

緊急で繋がれた通話。


「いのりちゃん、大丈夫……?」

モニター越しにコウの声が響く。

いのりは、嗚咽交じりにマイクをオフにしていたが、耳元のイヤホンから流れるその声だけは切らなかった。


「今日は、もう続けなくていいよ。切っていい。みんな、もう充分伝わってるから」


「……でも……私……完璧でいないと……」

「“すごい子”でいなきゃ、誰にも見てもらえなくなる……」


その言葉に、コウは少しだけ黙り、ゆっくりと、静かな声で告げる。


「今日くらい、泣いてもいいんだよ」


その瞬間。

いのりの肩が、小さく震えた。


「……ずるいです、先輩の声……」

「……安心しちゃって、我慢できなくなります……」


初めて見せた、本当の顔。

それは、14歳の少女が隠していた“子どもらしさ”だった。


誰にも甘えられなかった。

ずっと、背伸びしてきた。

「中の人、本当に14歳?」なんて言葉を褒め言葉のように受け止めながら──


本当は誰かに、

“怖いよ”“助けて”って、言ってみたかった。


 


しばらくして、配信はスタッフの手で静かに終了。

コメント欄には、温かい言葉が溢れていた。


【よく頑張った】【泣いてもいいよ】【また元気ないのりちゃん見せてね】

【#泣いていいんだよいのりちゃん】というタグが生まれ、深夜にもかかわらずトレンド入り。


 


夜が明ける頃。

スマホ越しの通話は、まだ続いていた。


「先輩……」

「……もし、わたしが……“完璧”じゃなくなっても……嫌いになりませんか?」


「なるわけないだろ」


その一言に、また少しだけ、静かな涙が流れた。

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