エピローグ『夢の続きを、きっとまた』
帰りのバスの車内は、昼過ぎの陽射しに包まれながら、静かな眠りの時間になっていた。
満喫した温泉と、ごちそうと、混浴と。
波乱万丈のイベントに、笑いすぎた腹筋と、たくさんのトキメキ。
誰もが疲れきっていた。
……けれど、その顔には、どこかやわらかな笑みが浮かんでいた。
「んぅ……ふふ……お兄ちゃん……浴衣、似合ってた……よぉ……」
(天城ひより・心の声)
頭をコウの肩に預けて、ひよりは小さく寝言を呟く。
ほのかに赤らんだ頬が、まだ昨日の続きを見ているようだった。
――
「……ねぇ、もうちょっとだけ、寄りかかっていい……?」
(不知火夜々・夢の中のつぶやき)
隣の席で、目を閉じた夜々が微笑む。
腕にそっと触れた指先に、確かにぬくもりを感じた気がした。
――
「ジャグジー……貸切……あれは夢じゃないよね……」
(真白みなと・心の声)
窓に額をくっつけて眠るみなとの唇が、かすかに緩む。
夢と現実の境目を漂うような、やわらかな寝息。
――
「勝負浴衣……やっぱりアレは効いてたよね?ね?」
(葛城メグ・自信ありげな夢の中)
ちょっぴり口元をにやつかせて寝ているメグ。
きっと夢の中でもコウに「見られてる」んだろう。
――
「一緒に……寝た……また……こんども……」
(白瀬るる・願いのような寝言)
るるの小さな体は、毛布にくるまれてちょこんと座っていた。
不安も、寂しさも、少しずつ溶けた顔で。
――
そして、バスはそれぞれの帰路へと走り出す。
都内の駅前、住宅地、マンションのエントランス。
ひとり、またひとりと、名残惜しそうに手を振って降りていく。
みんなそれぞれの家に戻って、ほんの少し現実に帰る時間――
◆天城ひより
「……ただいまー」
玄関のドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。
旅行カバンを引きずるように中に入って、靴を脱ぐ。
「ふぅ……やっぱり、自分ちって落ち着くよね……」
ぽつりと呟いたけど、すぐ後ろには――
「……あー、うん、おかえり。ひより」
「……うん、ただいま、お兄ちゃん」
なんだろう。
さっきまで、あんなに近くにいたはずなのに。
混浴も、星空も、添い寝も――あんなにドキドキしてたのに。
家に帰ってきた瞬間、
なんだか急に、照れくさくなってしまって。
リビングまでの廊下を、ふたりで並んで歩くのも、なんだか変な感じだった。
「ね、ねぇ……お兄ちゃん。あたし、荷物整理してくるねっ!」
「ん? ああ、うん。俺も着替えてくる」
そう言って、別れる瞬間、
どうしても、振り返らずにはいられなかった。
「……また、夜に……話せる?」
「……ああ、もちろん」
その一言に、ふっと肩の力が抜けた。
家に帰っても、お兄ちゃんは――
ちゃんと、私だけを見てくれるって、思えたから。
部屋に戻って、ドアを閉めた瞬間、
私は思いっきりベッドにダイブした。
「~~~~~っっ!! なにあれ! やばいっ!! 現実なんだけどっ!? 夢じゃなかったんだけどっ!!」
顔が熱くなる。
胸が苦しくなる。
でも、それでも――しあわせだった。
「……お兄ちゃんと一緒の家に帰って、あたしの部屋で、この気持ち抱えて眠れるなんて……」
こんなに近くにいられる今、
もっともっと好きになっちゃう予感しかしない。
――あたし、もう絶対に、譲らないからね。誰にも。
ふわふわの枕に顔を埋めながら、私はこっそり、そう誓った。
◆不知火夜々
「まったく……あんな混浴イベント、人生初だったわ」
お風呂から上がって、髪を拭きながらふと鏡を見る。
目元が、ほんの少し優しくなっていた。
「でも……ふふ、悪くなかったかもね。あの子たちも、なかなか手強いし」
スマホに保存された“コウくん盗撮写真フォルダ”を開いて、思わずにやり。
「さてと……次は、どう仕掛けましょうか」
◆真白みなと
「もう……恥ずかしすぎて、思い出すと変な声出る……」
ベッドにダイブして枕に顔をうずめる。
でも、頬が勝手に熱くなるのは止められない。
「……ほんとに、幸せだったなぁ……」
勇気を出して、伝えられてよかった。
あのぬくもり、ずっと忘れない――
◆葛城メグ
「よっしゃあああああ! 勝負浴衣は大成功だったー!!」
部屋着に着替えながら、大の字になってガッツポーズ。
「けどさー……あたし、けっこうガチだよ?
このままじゃ終わらせないからねー、覚悟してよねー? 天城コウ!」
次の勝負、今からでも準備開始だ!
◆白瀬るる
「……たのしかった、なぁ」
部屋のぬいぐるみに向かって話しかけながら、
ふかふかのクッションに身を預ける。
「また、いっしょに、寝られるかなぁ……コウくんと」
頬に残る、ほんのかすかな感触。
それを確かめるように、指先で自分のほっぺを触ってみた。
◆天城コウ
「……静かだな」
家に戻って、リビングのソファに一人。
さっきまで一緒だった彼女たちの笑顔を、ひとり思い返していた。
笑って、泣いて、恥ずかしがって、拗ねて――
それでも、みんなまっすぐに僕に想いを向けてくれてた。
こんなにも眩しい旅だったなんて、思ってなかった。
(――ありがとう)
小さくそう呟いて、僕はスマホのアルバムを開いた。
そこには、宝物のような“思い出”が、たしかに刻まれていた。
……さあ、また明日からの日常が始まる。
でも、あの夢のような日々は、
いつだって、僕の胸の中で輝き続けている――。




