『湯けむりの向こう、ほんとの気持ち』
「それでは、素直な気持ちをぶっちゃけトーク! トップバッターは……不知火夜々さん、お願いしま〜す♡」
神代マネのアナウンスが湯けむりの上から響く。
風呂縁に肘をついていた夜々は、ふぅ、とひと息ついてから、
コウの方をちらと見た。
「――コウくん。あなたって、本当に罪な男ね」
「え? えぇっ!? ご、ごめんなさい何かしました!?」
「ふふ、謝らなくていいのよ。……だって、あなたは本気で“誰にでも優しい”んですもの」
その言葉には、冗談とも、本音ともつかない響きがあった。
夜々はゆるく笑って、湯の中で脚を組み替える。
「そういうところに……女って、弱いのよ」
「夜々さん……」
「ま、私のターンはこれでおしまい。次、どうぞ?」
スッと退く夜々の姿が妙にかっこよくて、誰も何も言えなかった。
「はいっ、じゃあ真白みなとちゃーん、お願いしまーす!」
「……えっ、うぅぅ……じゃあ、少しだけ」
みなとは、タオルを胸元ぎゅっと握りしめて小さくうなずく。
「……私は、コウくんの“声”が、最初のきっかけだった」
「え?」
「でも、声だけじゃなかった。配信で、現場で、みんなの前で……いつも誰かのために言葉を選ぶ、そのやさしさが……ずっと、羨ましくて、あったかくて……」
「みなとちゃん……」
「――ずるいよ。そばにいたら、好きになっちゃうよ」
ぽつりと、それだけを言って、
彼女はそっと湯に沈んだ。
「じゃあじゃあ! つぎ、メグー!!」
「了解っ! 行くぜぇぇええええ!!」
ひときわ元気な掛け声とともに立ち上がったのは、葛城メグ。
案の定、バスタオルがはらりとズレ――
「ストーーーップ!!!」
全員の全力ストップで事なきを得た。
「ちょ、ちょっと! 見えてないよね!? いまの!」
「もうちょっとで見えるとこだったから落ち着けぇぇぇえ!!」
「……よし、気合入れ直して! あたし、こう見えてもガチなんだよ」
「ガチ……?」
「うん、コウくんのこと、本気で好きになっちゃった。
イケボとか、イケメンとか、関係ない。ちゃんと向き合ってくれてるって思えるから……
だから、他の子に負けたくない。ほんとの気持ち、伝えたいんだよ!」
まっすぐな言葉に、場が少し温まった。
文字通り湯気も立ってるけど。
「じゃあ、次は……天城ひよりちゃん、どうぞ〜!」
「わ、わたし!?」
ひよりは顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えながらも、少し前へ出た。
「えっと……コウ、お兄ちゃん。昨日の夜、一緒にいられて……うれしかった」
「ひより……」
「でも、それで終わりじゃないの。わたしは、ずっと一緒にいたい。
みんなと笑って、泣いて、それでも……お兄ちゃんのいちばん近くにいたい」
「……」
「だから……この気持ちは、誰にも負けない。ずっと、信じてる」
彼女の頬を伝った涙が、湯けむりの中で光る。
湯船が、しん……と静まった。
「……」
「えっ、るる? 次、だよ?」
「あっ、はいっ……えっと、るる、ですっ!」
小さな体でちょこんと前に出ると、るるは胸元で手をぎゅっと握った。
「るるは……みんなみたいにキラキラしてないし、お姉さんたちみたいに色っぽくもないし……
でも! コウくんに会えて、るる、すっごく変われたんです!」
「変わった、って?」
「自分の声、配信、好きって思えたの。勇気出して、もっと頑張ろうって思ったの……だから……!」
一歩、足を出して――
「るるも、好きですっ! コウくんのことっ!」
湯けむりの中、誰もが言葉を失った。
――全員が、素直になった。
だからこそ、最後に笑えるように。
「はーいっ! みなさま、ありがとうございましたぁーっ!
これにて“湯けむりイベント”は終了ですっ! バスタオル、忘れないようにね〜!!」
神代マネの音頭で、イベントは一応の終幕を迎えたが――
その心に火が灯った乙女たちは、まだまだ終わってなどいなかった。
「……まだ、負けてないよ」
「そ、そーだよね!? これからだよね!」
「……次は、ぜったい、勝つからね」
「うふふ……その意気よ。もっと火傷しそうな恋、していきましょ?」
混浴の湯気が晴れるころ――
それぞれの想いも、少しだけ形になっていた。
そして、主人公コウの目の前に広がるのは――
**“全員好きになってしまったかもしれない”**という、前代未聞の沼だった。




