『湯けむりと乙女心と湯船の向こう』
「――それでは、いよいよ最後のイベントですッ!!」
神代カオルが館内マイクで高らかに宣言したその瞬間、
参加者全員の表情が同時に引きつった。
「まじでやるんだ……これ……」
コウは目の前の“貼り紙”を見つめた。そこにはこうある。
【全員強制参加】貸切露天風呂での“心も体も素直になろう混浴イベント”
服装:タオル、水着などご自由に(ただし常識の範囲内で)
感想タイムあり。お互いの心の距離を縮める絶好のチャンス!
「この“常識の範囲内”って誰の基準なんだよ……」
とりあえず水着を選んだコウは、控室の暖簾の前で一度深呼吸した。
が、その向こうで聞こえてくるヒロインたちの“作戦会議”に思わず足が止まる。
「いい?みんな、混浴ってことは“視線の主導権”を握った子が勝つのよ!」
夜々が胸を張る。まさに色気番長の貫禄。
「う、うんっ。でも、変なとこ見られたらどうしようって思っちゃって……」
ひよりはすでに顔が真っ赤。耳まで赤い。思考が沸騰している。
「勝負の水着……着てきて正解だったね!」
メグがぴょんと跳ねた瞬間、前屈みになるみなとがつぶやいた。
「そのまま跳んだら、いろいろ“こぼれる”って言ってるのに……」
「おっぱいの話?」
るるが純粋すぎる笑顔で聞き返してくるのが、ある意味いちばん危険。
「――って、声、聞こえてんですけど!!」
コウのツッコミもむなしく、暖簾がぱたん、と上がった。
「待たせたな、お兄ちゃん♪」
ひよりが満面の笑みで登場――
した瞬間、全員の視線が集中した。
理由は一つ。
「ひより……そのバスタオル、短すぎない……?」
夜々がやや引き気味に言う。
「えっ!? こ、これはね!? これしか貸し出しがなくてっ……!!」
(絶対にそんなわけない!!!)と、コウは心の中で突っ込んだ。
「さ、さすがにこれは……見えちゃうっ……かもっ……」
みなとが顔を伏せた瞬間、
「コラアアア! そんなの男の前で着るなァァァ!!」
メグが飛び蹴りをかましながら、ひよりのバスタオルの裾を押さえる。が――
「ちょっ、やめっ、めくれるから!! って、あっ、やばっ――」
「きゃぁぁああ!?!?!?」
ごろん、と湯船の手前で3人がドミノ倒し。
見事な転倒&密着。
肌色面積は天井突破、湯けむり演出では隠しきれないリアリズム。
「なにこの展開、AVかよ……!」
コウが思わず目を覆った。
そこへ、何も知らずにるるが入場。
「わぁー……湯気の中に、みんながごちゃごちゃしてるぅ……。
あ、お兄ちゃん、こんにち……――えぇぇぇぇっ!?!?!?」
そのあと、るるは湯船の“端っこ”を選び、体育座りのまま微動だにしなかった。
「ま、まあまあ。せっかくのイベントだし、入ろう入ろう♪」
夜々がちゃぽんと湯に浸かり、肘を湯縁にかけてコウに視線を送る。
その角度がまた、危うすぎる。
「視線はこっちよ? コウくん」
「え、あ、うん……その、ありがとう」
その横で、みなとがタオルで顔を覆いながら言う。
「……視線も、お湯も、どこに落ち着いていいかわからない」
「お兄ちゃん、さっきより赤いよ?」
ひよりが得意げに囁く。
(頼む、誰か冷たい水を……)
コウがそう願ったその瞬間、
神代マネの声が再びマイクで鳴り響いた。
「はいはーい、みなさーん、そろそろ“素直になるトークタイム”のお時間ですよ〜!
順番に、コウくんへの想いをぶっちゃけていきましょう!」
「「「「「「えぇぇぇえええええええええ!?!?」」」」」」
湯けむりの向こうで、恋と羞恥と“湯の乱”が加速していく。
――この戦い、誰が勝つのか。
それとも全員、負けていくのか。




