『乱れる浴衣と、秘めた想いと、白熱のラブゲーム』②
「決勝戦、はじまるよ〜っ!!」
神代カオルの実況が大広間に響く。
勝ち上がったのは――
高校一年生にして、すべてのヒロインを圧倒した“運動神経おばけ”こと、天城ひより。
そして、小柄な体で回転サーブとフットワークを駆使して快進撃を続けた、“小さな天才”こと、白瀬るる。
浴衣姿のふたりが、卓球台をはさんで向き合う。
「るるちゃん、手加減しないからね」
「うん……っ、るるも、全力でがんばります!」
そう言って小さくお辞儀をしたるるは、ほんのり赤く染まった頬を押さえながら続けた。
「でも……勝っても負けても、今日がすごく楽しかったです。ひよりさん、ありがとう」
その笑顔に、ひよりは胸がチクリと痛んだ。
(……優しくて、いい子。なのに、私、勝ちたいって思っちゃってる)
(だって……この賞品は、“お兄ちゃんと過ごす時間”なんだもん――!)
* * *
「では、ファーストサービス……ひよりさんから!」
「……いくよっ!」
――カンッ!
スタートの合図と共に、ラリーが始まった。
「ふんっ」
「……えいっ」
パコン、パコン――心地よい打球音が響くたびに、浴衣の袖がひらりと舞い、髪がふわりと揺れる。
ひよりは力強く、るるは軽やかに。
性格も、スタイルも、何もかも違うふたりが、今だけは“想い”を同じにして向き合っていた。
「すごい……っ、るるちゃん、こんなに返してくるなんて」
「ひよりさんも、すっごく速いですっ!」
お互いの打球を見つめ、受け止め、応じ合う。
息が切れても、袖がはだけても――二人の表情は真剣そのもの。
(でも、私は……負けられないのっ)
そう思って、ひよりがスマッシュ体勢に入った、その時――
「がんばって、ひより!」
「っ……!」
コウの声が、観客席から響いた。
(お兄ちゃん……見てくれてる……っ!)
よし、これで決める――!
そう握ったラケットを、次の瞬間、ふっと緩めた。
「――がんばって、るるちゃん!」
別の声が響いた。
今度は、コウの声が――るるに向けられた声が。
「……っ!!」
「……あ、ありがとう、ございます……!」
笑顔を浮かべたるるの頬が、少しだけ赤くなる。
(あ……そっか、るるちゃんも……お兄ちゃんのこと、好き……なんだ)
(私だけじゃ、ない)
(でも……)
ひよりの胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
(それでも、譲れない)
(この一戦だけは、どうしても、譲れないっ……!!)
「はあぁぁぁっっっっっっっっっ!!」
気合と共に打ち込んだ、渾身のスマッシュ。
回転をかけた打球が台に突き刺さり、るるのラケットのわずか手前で、くるりと軌道を変えた。
「きゃっ……!」
るるの小さな手が空を切る。
「――決まったぁぁああああああっ!!!」
「優勝は……天城ひより選手っっ!!」
大広間がどよめきと拍手に包まれる中――
ひよりはラケットをぎゅっと抱きしめたまま、震える声でぽつりとつぶやいた。
「やった……」
「……勝った、んだ……私……」
その場にへたりこみ、視界がにじんだ。
「やっと……お兄ちゃんと、ふたりになれる……」
ぽろぽろとこぼれる涙を、袖で拭いながら、
「本当にやったんだ」「これからが大事」「みんなも同じ気持ちなんだよね」
――そんな言葉が心の中でこだまする。
でも今は、勝った者だけに与えられる“特別な時間”。
ずっと胸にしまっていた“願い”が、ほんの少しだけ、現実に近づいた。
そのひよりの肩に、そっとコウが手を置いた。
「……よくがんばったな、ひより」
「う……うん……」
「泣くほどのことか?」
「うん……大事なことだったから……」
ぽつりとそう答えたひよりの目は、すでに次の夢を見つめていた。
それは――深夜の混浴、水着なんてない、星空の下でふたりきりの、
長い、長い夜の物語だった。




