『乱れる浴衣と、秘めた想いと、白熱のラブゲーム』①
しばらくの間、館内には微かな湯の音と鳥のさえずりだけが響いていた。
朝のイベントラッシュを終えた参加者たちは、思い思いの時間を過ごしていた。
誰もが浴衣姿で、部屋でまどろむ者、ロビーでアイスをつまむ者、縁側でぼんやり外を眺める者。
その静けさを破ったのは、旅館に設置された館内放送の、軽やかなチャイムだった。
「えー、おくつろぎ中の皆さま、失礼いたします〜」
マネージャー・神代カオルの、やけにテンションの高い声が響く。
「このあと14時より! 大広間にて――
『スペシャルデート券争奪・大卓球大会』を開催しま〜す!」
「えっ!? 卓球大会!?」
「……なにそれ、聞いてない!」
部屋中に、どよめきと歓声が同時に湧き起こる。
「優勝賞品はなんと……!
『深夜の混浴(水着なしエリア)』+『星空散歩』+『朝まで添い寝』――
の、ぜんぶ盛り! スペシャル・デート券!!」
「ななななな、なにそれ……!?」
「えっ、待って、混浴!? 星空!? 添い寝!? ……フルコース!?!?」
館内放送を聴きながら、ヒロインたちの頬が一気に赤くなり、背筋がピンッと伸びる。
お風呂あがりのぼんやりした空気が、一気に戦闘モードへと切り替わった。
「なお、参加条件は浴衣着用のみ!」
「ラケットは貸し出しあり、帯が解けた場合の対処は……各自、責任を持ってください♡」
「うわぁあああっ……カオルさん絶対わざとでしょこれっっっ!!!」
部屋の隅から叫び声が上がる。
「……勝つしかない」
ぼそりと呟いたのは、夜々だった。
瞳に宿るのは、普段のクールさではなく、燃えるような情熱と色気。
「これはもう……恋の、戦争よ」
* * *
「いよいよ! 第一試合、開始です!」
大広間に設置された即席の卓球台のまわりには、すでに全員集合していた。
みな浴衣姿――だが、立ち居振る舞いのどこかに、戦う女たちの決意がにじみ出ている。
「第一試合、夜々さん vs ひよりちゃん!」
「よろしくお願いしますね、ひよりちゃん?」
「……こ、こちらこそっ!」
夜々は、髪を艶やかに下ろし、浴衣の襟をゆるりと広げ、帯もどこか危うく緩めた“色気特化モード”。
一方のひよりは、真剣そのものの眼差し。
彼女だけは、賞品の中身を“本気”で欲している顔だった。
打ち合い開始!
――カンッ! カンッ!
「それっ」
「はっ……! 負けないっ!」
夜々のスナップの効いた返球が、絶妙なコースを突く。
だが、ひよりの身体能力がすべてを拾う。
「……やるじゃない」
「ふふっ、夜々さんも……でも、私、負けられないから!」
最後は高速スマッシュ。
夜々、悔しそうに浴衣の袖をくわえながら敗北。
「くっ……やっぱり運動部は伊達じゃないわね……」
「ありがとうございました!」
* * *
次の対戦は、みなと vs メグ!
みなとはゆるふわ浴衣にふわふわの髪飾り、完全に“癒し系”を演出。
だがその雰囲気とは裏腹に、プレイスタイルは超正確な返球。
「へへっ、みなとちゃん、いい勝負しようね〜!」
メグは――まさかの“下着なし”スタイル。
スパッと羽織っただけの浴衣が動くたびにひらりひらりと乱れ、ラリー中も視線の置き場に困るレベル。
「ひゃっ!? こ、これ、やばっ、ま、前見ないで〜!!」
自分で招いた悲劇に、自滅気味にラリーが乱れる。
「えっ!? えっ!? これってもしかして見えて――きゃあああああっ!!!」
「ストップー! メグ選手、動揺による自滅で敗退ー!」
顔を真っ赤にして体育座りするメグの横で、みなとはうすく笑った。
「……この大会、運だけじゃ勝てないかもね」
* * *
そんな中――着々と勝ち上がっていくひよりと、華麗なステップと回転サーブで勝利を重ねるるる。
試合のたびに、浴衣の裾は乱れ、袖が外れ、帯がふわりと揺れて、
主人公・コウはというと……
(……ど、どこを見れば……!? 視線、定まんないっ!!)
全方位から飛び出す、ラッキースケベの猛攻。
心のHPが削られていくばかりだった。
「お、お兄ちゃん、応援してくれるなら、ちゃんと見ててよねっ!」
(いや、見てるけど!見てるけど!見ちゃいけないものも見えてるんだけど!!)
こうして、大卓球大会の“乱戦”は、さらに熱を帯びていくのだった――。




