【一日目】『その温泉、混浴につき注意!?』
「えっ、えっ、なにこれ……えっ!? ほんとに旅館!? ホテルじゃなくて!? これって旅館名乗っていいの!?」
到着してすぐ、ひよりの絶叫が敷地中にこだました。
旅館《やまほたる亭》――
自然に囲まれた立地、木造三階建ての風情ある建物に、眼前には滝の音が聞こえる渓流。
門をくぐればすぐ、吹き抜けのロビーに和紙の照明と香のかすかな香り。
「……すごい。さすがカオルさんチョイス」
みなとが感心したように口元に手を当てる。
その背後で、メグは「ひゃああああ! ヤバいヤバいテンション上がってきた~っ!!」とスキップしていた。
「写真映え……すっごくよさそう。お兄ちゃん、スマホ貸して?」
ひよりがコウの袖を引っ張り、ぴたっとくっつく。
るるは「るる☆るん! ごほうび旅行、さいっこう〜っ♡」と早くも実況モード。
「ほら、みんな集合して~っ!」
その声に振り向けば、神代カオルマネージャーが浴衣姿で立っていた。
ひと足先に着替えを済ませたらしく、すでに“くつろぎモード”全開の表情だ。
「この旅館、今日から二泊三日まるごと貸し切りです♡ スタッフも専属でついてくれるので、他のお客さんはいません!」
「えっ、うそ……貸切って、そんなに予算かかるでしょ……」
夜々が思わず引きつった声を漏らす。
「社長がね? “ちょっと税金対策で”って。ま、そういうこと♡」
さらっと怖いことを言いつつ、カオルは旅館のパンフレットを全員に配る。
「じゃーん! これが、今回みんなが堪能する《施設案内》です!」
さっと開かれるパンフ。
そのページには、あまりにも豪華すぎる設備が並んでいた。
天然岩風呂(露天)
桜の湯・檜の湯(大浴場/日替わり)
ジャグジー&泡風呂(屋内)
水着エリア(男女共用・混浴)
サウナ・外気浴・炭酸泉完備
さらに――《貸切露天風呂・混浴可能》の記載。
「ま、まま、混浴……!?」
最初に食いついたのはやはりひよりだった。
「ま、ままま混浴って、書いてるけど!? わざと!? 絶対わざとだよねこれ!!」
「え、えっちじゃん……」
メグがぼそっと言ったその一言に、全員の脳内が一気に赤く染まった。
「やば……コウくんと混浴……? ていうか、みんなで……?」
夜々は口元に手を当てつつも、目の奥がギラリと光る。
「……冷静になれ。たぶん順番制とか、時間制とか……あるはずだし……たぶん」
みなとは顔を逸らしながらも、表情が明らかに赤い。
「わわっ……あのねあのね、るる、コウくんと混浴、したい……♡」
無邪気な言葉に一同が硬直した。
「る、るるぅ!? なに言って――!」
「え? ちがうの? 混浴って、仲良しといっしょに入るやつじゃないの?」
キョトンとした顔で首をかしげるるる。
けれどその声が妙に甘く響いたのは――気のせい、ではない。
「えーっとね、一応説明すると、この旅館の“混浴エリア”は、水着着用が必須です! それとは別に、“貸切露天”は申請すれば水着なしOKです!」
カオルが満面の笑みで爆弾を追加する。
「もちろん、時間管理と申請制だけど……誰と一緒に使うかは、自由♡」
「っっっっっっ!!!」
頭を抱えてうずくまるひより。
その隣で夜々が眼鏡を外し、「これは……大変な戦争になりそうね」とため息を漏らす。
「……ぜんぶ、誰より先に入るもん……」
るるがすでに作戦を立てている横で、メグは天を仰いでいた。
「うっわ……浴衣、絶対着崩れるやつじゃん……やっば……」
「あと、あの、今回の旅程には――楽しい“企画”もいろいろ入ってます! 詳細は、夕食の宴会場で発表するね♡」
「……それ、絶対なんかあるやつ……」
コウが呟いたその言葉に、全員が無言でうなずいた。
戦いの火蓋は、すでに静かに――落とされたのだった。




