【出発前夜】ー葛城メグの場合ー
「よしっ……! 勝負は、浴衣だよね!!」
自室のベッドに浴衣を広げた葛城メグは、ひとりでうんうん頷いていた。
真っ赤なチェック柄のパジャマのまま、鏡の前で何度も浴衣を羽織っては外す、羽織っては外す……を繰り返している。
「襟の抜き方は……ちょっと大人っぽく……で、帯は、可愛くキュッと! うん、うん、これなら――」
だがその次の瞬間、彼女は自分の言葉に顔を真っ赤にして崩れ落ちる。
「――って、下着つけてないじゃん自分ぅぅうぅ!!」
そう、浴衣の下に“何もつけない”のが今日のメグの“作戦”だった。
(だってさ。だって……!)
心の中で、思い描くのは――
温泉宿の廊下。
浴衣姿の自分が、ふと風ですそをはためかせたとき――
偶然コウの視線がそこに向いて――
「……メ、メグ!? まさか、その……っ」
『うん……つけてない、の。見ちゃったなら、責任とって……』
「ひゃぁあああああああああああっっ!!」
妄想の自爆炸裂。
メグはベッドに顔を埋めて、しばらくのたうちまわった。
(ああもう何考えてんの私! でもっ、でも!)
この旅行はチャンスだった。
まだ“見習い”の身で、コウとの接点もそんなに多くない。
でもだからこそ、「推しに恋する自分」が“推される側”になるための大一番――!
「告白しよう……っ! 絶対、浴衣で告白するっ!」
勢いのままに立ち上がり、ポーズを決める。
だが、すぐに不安が押し寄せる。
(でも……私なんかが、言っていいの? 夜々さんとか、ひよりちゃんとか、すっごい近そうだし……)
一瞬、自信を失いかけるその表情に、影が落ちる――
けれど。
「……違う。私が“推される側”にならなきゃ、いつまでたっても、届かないんだ」
握った拳に力が入る。
「やる。やるったらやる! 下着も脱ぐし、浴衣も着るし、告白もするっ!」
どこまでも前向きな暴走モード。
キャリーケースに畳んだ浴衣と、温泉用のタオル、そして――「つけない予定」の下着を、あえてきっちり畳んで入れる。
(……一応持ってくだけ……ね?)
そのあとの動きは早かった。
ヘアアイロンで前髪を整え、まつげ美容液を塗り、リップも三種類比較してどれを持っていくか決めて――
「ふぅ……よしっ、明日は“推し落とし大作戦”の初日。メグ、いっきまーす!」
自室の明かりがパチンと消える。
ふかふかの布団に包まれながら、メグの妄想はまだ止まらない。
(夜の廊下でふたりきり、コウが「メグ、眠れないの?」って聞いてきて……)
(そこから浴衣のすそが、ふわって……で、見えちゃって――)
「~~~っ! むりぃぃ! でも、やるぅうぅ!」
枕に顔を押しつけ、全力で悶えるメグ。
その頬は真っ赤で、でも笑顔で――
明日の「告白劇場」にすべてを賭けて、夢の中でも“推し”に一直線だった。




