『妹だけど、女の子だもん。』
「じゃーんっ! 《ひよこまる♪ × レイ》兄妹ゲームコラボ配信、開催決定ですっ!」
配信画面の向こうに向かって、私は元気よく手を振った。
コメント欄が一斉に流れ出す。
《うおお神回》《神兄妹再来》《この組み合わせ待ってた!》
《もう結婚しろ》《レイくん妹に甘すぎて草》《尊い……》
ふふっ、やっぱりこの空気、好き。
一緒に配信すると、コメント欄の盛り上がりもすごいし、
何より――お兄ちゃんと一緒にいられるから。
「ひよこまる、今日も元気だな。ゲームもトークも、全部任せたぞ」
「お兄ちゃん、それじゃただの置物じゃん! ちゃんと動いてー!」
「了解、妹様」
ちょっとした掛け合いに、コメントが《夫婦漫才かよ》《安定感すご》《これが公式妹か》と湧く。
お兄ちゃんが笑ってくれるだけで、胸がふわってなる。
声も、表情も、私だけが知ってる“裏の顔”も――全部が好き。
……だから、私だけのものにしたい。
でも、それってワガママなのかな。
「ねぇお兄ちゃん、ひよりの声、今日ちょっと甘すぎたりしない?」
「そうか? いつも通りだと思うけど……」
「ふーん。そっかー。じゃあ、お兄ちゃんが気づいてないだけだよ」
「……え?」
そう言って、小さく笑う。
たぶん今のセリフ、配信ではちょっと聞き取りづらいくらいのトーンだった。
でも、お兄ちゃんにはちゃんと届いてる。
……届いててほしい。
「さてさて、今日は兄妹で“お互いのことどれだけ知ってるかクイズ”をやりまーす!」
「え、そんなの聞いてないが……?」
「ふふ、サプライズ。お兄ちゃん、逃げちゃダメだからね?」
私は手元のフリップを持ち上げて、準備万端。
配信中だけど――これは、恋の戦いの始まりでもあるんだから。
「第3問! ひよりの好きな朝ごはんは?」
「えーっと……鮭おにぎりと、甘い卵焼き?」
「ピンポーン! 正解〜〜〜!」
「ふっふっふ。伊達に一緒に暮らしてないからな」
「うーん……じゃあ、お兄ちゃんの好きな寝巻きは?」
「それ問題としてどうなんだよ」
「ほら、早く答えて?」
「……ひよりのパジャマ姿」
「…………っ!? お兄ちゃんっ!!???」
わ、わ、わたしのパジャマ!?
っていうか、それ配信中に言うこと!?
コメント欄が爆発する。
《!?!?》《今の聞いた!?》《天城兄やばい》《こいつら付き合ってるだろ》
《パジャマ特定班出動》《それはアウトでは》《尊死》
「ち、ちがっ……! これはっ、そのっ、冗談でっ……!」
「嘘つけ。反応が初々しすぎて逆にバレバレだぞ」
「う、うぅ……ばか……」
配信画面の自分のアバターは笑顔を保ってたけど、
私の心臓はバクバクで、顔はたぶん、真っ赤になってる。
……こんなの、ずるいよ、お兄ちゃん。
妹って立場だから、いつも“甘える側”って思ってたのに――
たまにこうやって、ズルいくらいにドキドキさせてくる。
……もしかして、ちょっとは意識してくれてるのかな。
なんて、そんな都合のいいこと、思っちゃう自分がいる。
配信が終わったあと、私はそっとイヤホンを外して、お兄ちゃんの部屋を見た。
モニター越しに、ちょっと疲れたような笑顔を浮かべる横顔。
「あのさ……今日の配信、どうだった?」
「ん? 楽しかったよ。やっぱりひよりは進行上手だな。助かる」
「……それだけ?」
「ん?」
「……ううん、なんでもない」
……ズルいなぁ。
お兄ちゃんは、いつも自然体で、私を甘やかして、
でも決定的なことは言わない。
“妹”と“女の子”のあいだに立って、
私をじらすように笑って――
「……でも、絶対にあきらめないから」
「え?」
「こっちの話!」
私は笑って、すぐに部屋を出た。
胸の奥、あったかくて、くすぐったくて、でも少しだけ切ない気持ちが広がっていく。
まだ“妹”のままだけど――
でも、今日の配信で、ちょっとだけ踏み込めた気がする。
たとえばそれが、ほんの一歩でも。
いつかその一歩が、未来につながる日がくるかもしれないから。
……だから、もっと頑張る。
お兄ちゃんを、ぜったいに誰にも渡さないために。




