プロローグ:アオハル妹、嫉妬する。
「……お兄ちゃん、モテすぎじゃない?」
そんなつもりじゃなかったのに、口に出した瞬間、心の奥で何かがプツンと弾けた。
天城ひより――十五歳。高校一年生。
そして、《ひよこまる♪》という名前で活動してる、ほんわか癒やし系(自称)のVtuber。
だけど、今この瞬間、私は全然癒やされていない。
むしろ、ぐるぐるぐるぐる、心の中で黒いもやもやが渦を巻いてる。
「……だって最近さぁ、お姉さんポジの人と夜遅くまで打ち合わせしてたでしょ?
それに、同級生ポジの子と、こないだ配信で急接近してたし……
後輩ポジの子は“レイくん大好き!”って堂々とアピールしてくるし……
極めつけは、あの“新妹ポジ”……っ!!」
部屋のベッドの上で、うつ伏せのまま枕に顔を押しつけて、私はバタバタと足をばたつかせる。
あぁ、もう……なにこれ、完全にヤキモチじゃん。
「うぅ……お兄ちゃんのバカ。無自覚たらし……」
思えば、最初に《ひよこまる♪》として活動することになったとき――
中の人を代わってもらう形で、お兄ちゃんが“中の人”をやってくれたとき――
あの瞬間から、私はもう、ずっと、ずーっと好きだったんだ。
兄としても、男の人としても。
世界で一番かっこよくて、優しくて、頼れて、ちょっと鈍感で――
それでも、どんなときも私の味方でいてくれる、最高の人。
……だったのに。
最近、なんか私の“ターン”少なくない?
他の子たちとコラボしたり、裏で相談に乗ったり……
私だけが知ってるお兄ちゃんの顔、減ってきてない?
「いや、でも……一緒に住んでるし! 幼い頃からずっと一緒だし!
“義妹”ってだけで、他とは一線を画してるはず!」
・・・・・。
「まだだ。まだ焦る時間じゃないっっっっっ・・・!!!。」
心の中で叫んでみても、不安は消えない。
だって、あの新妹ポジの子、やたらと可愛いし、甘えてくるし、
お兄ちゃんもまんざらでもない感じだし……。
私の、“妹”ってポジション……誰にも渡したくないのに。
……ダメだ、泣きそう。
私はがばっと起き上がると、机の引き出しから、数日前に作った企画書を取り出した。
《ひよこまる♪ × レイ》兄妹ゲームコラボ配信――自宅収録バージョン。
事務所に提出したら、意外とあっさり通ってしまった。
「やるしかない……!」
妹として。
女の子として。
そして、ひとりの恋する女の子として。
このモヤモヤを吹き飛ばすために――
私は“私だけにしかできないこと”を、やってやるんだから。
「ひよりー、晩ごはんできたぞ。降りてこいよー」
階下から、お兄ちゃんの声が聞こえた。
その声だけで、胸がぎゅってなる。
こんなに大好きで、大事で、大切で、愛おしい人が、
誰かに取られてしまうかもしれないなんて――
……そんなの、ぜったい、イヤ。
「……今いくー!」
わざとらしく明るい声で返事をして、私は立ち上がる。
鏡をちらっと覗いて、ほっぺをぺちぺち叩いて笑顔を作る。
大丈夫。まだ焦る時間じゃない。
私は、ずっと一緒にいた。
これからだって、いちばん近くにいられる。
そして――十八歳になったら。
“兄妹”じゃない、特別な関係になってみせるんだから。
心の奥でそっと呟く。
小さな決意を胸に、私は階段を駆け下りた。
「ねぇお兄ちゃん、今日のごはんはなぁに? ひよりの好きなやつー?」
くるっと振り向いたお兄ちゃんは、相変わらず無防備で優しい笑顔だった。
……ほんと、罪な男だよ。
でも、だからこそ――絶対に、渡さない。
どんな女の子より、誰よりも、
私は“お兄ちゃんの妹”で、“いちばん近くにいる女の子”なんだから。
――恋する妹は、今日も最前線です。




