『推しカプ運営会議は今日も通常運転』
事務所の会議室。午後三時。
カーテンを閉め切り、ホワイトボードの前に一人立つ男の影があった。
神代カオル、二十七歳。LinkLiveのマネージャーにして、運営の実行責任者。
その男は今、深い集中状態に入っていた。
カツン。カツン。
ホワイトボードに、赤と青のマーカーを交互に走らせていく。
書かれていたのは、こうだ。
《レイ×ノワール=クロエ:先輩後輩イケボ対決カプ》
《しろみな×メグ:ゆるふわお姉さん×生意気見習いの姉妹感百合》
《ひよこまる♪×るる☆るん!:年の差癒し×天真爛漫の禁断の妹萌え》
《ルイ×誰とも組まず、孤高のポジション。逆に熱い》
《レイ×しろみな:ほぼ夫婦。お互いの“素”を知っている安心感》
《レイ×メグ:ツッコミ不在のボケ倒しカプ。カオス。でも刺さる層がいる》
「ふふ……いい。いいぞ……想像以上に仕上がってきた……」
神代は独りごちた。
「次のコラボ配信では“即興カップリングドラマ”企画を入れよう。視聴者の投票で相手役が変わる、地獄の即落ち2コマ芝居……」
自らの案に陶酔しながら、資料をプリントアウト。
机には“LinkLive非公開資料:恋愛相関図Ver.8.3β”の文字。
「……なにをやってるんですか」
背後から声がした。
カオルが振り向くと、そこには天城コウが、アイスコーヒー片手に立っていた。
「これはあくまで業務の一環だよ、コウくん。ファン心理の可視化と企画構造の最適化」
「なるほど、“企画書風の二次創作”ってやつですね」
「否定はしない。でも、重要なのは“ときめきの供給”だ。感情は熱いうちに食え」
コウはため息をついた。
「……で、これどこまで本気なんですか?」
カオルはにやりと笑った。
「次の月例ミーティングで提案するよ。テーマは“恋とスキャンダルの境界線”だ」
「なんかもう、タイトルだけで荒れそう」
「いいか、コウ。視聴者は恋愛模様に飢えている。けど、リアルすぎると冷める。だから俺たちは“ギリギリのドキドキ”を運営するんだよ」
「“運営する”な……」
コウが呆れ顔で去っていく。
だが、カオルはその背中を見ながらひとりごちた。
「さて、君たちの“関係性”も、そろそろ一歩進めてもいい頃だ」
◇ ◇ ◇
その夜。
カオルは新しいファイルを開いた。
そこに綴られていたのは、来季イベント案のドラフト。
【次期企画案】
企画名:『LinkLive文化祭 ~本気で作って、バズらせろ~』
概要:
・メンバーによるリアル模擬店運営×V配信連動企画
・各チームが“実際の出店”を行い、コラボメニュー・ライブ・演劇などで競う
・ファンは現地参加&オンライン視聴OK。ライブグッズ販売あり
・事前配信で「チーム分けドラフト会議」&「裏方密着ドキュメント」を実施
狙い:
・メンバー間の“素のやりとり”を最大化
・“誰と誰が組むか”を視聴者が見守る=カプ供給の自然発生装置
・文化祭という“非日常”での感情揺れを利用したストーリー生成
「ふふ……完璧だ」
カオルはコーヒーをすすりながら、ファイルを保存した。
その名も――
《LinkLive企画案2025_恋と文化祭とカレーうどん(仮)》
彼は知っている。
“偶然の隣席”こそが、ラブコメのはじまりだということを。




