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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第9章『きょうも、なんでもない一日。』

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『冷蔵庫を制する者、天下を取る!』

金曜の夜。

一人暮らしのメグにとって、最も自由で、最もテンションが高い瞬間である。


「ふふふ……今日こそ“完璧な夜ふかし”を実現してやる!」


部屋着に着替え、ソファに飛び込み、ポテチとアイスとジュースを両手に抱えた。

机の上には、録り溜めたアニメと漫画、そしてレンジで温めた唐揚げ。


「完璧すぎてコワい……」


だが、その瞬間。


──カコン……ッ


「……ん?」


どこかから、異音。


耳を澄ますと、どうも冷蔵庫のほうから聞こえる。


──ゴゴ……カチャ……キイイ……


「………………」


背中に悪寒が走る。


「ちょ、マジでやめて!? ラップ音とかホラー映画でしか聞いたことないんですけど!?」


メグは慌てて塩を持ち出し、テーブルに盛りはじめた。


「くっ……まさか冷蔵庫が霊界とつながっていたなんて……!」


真剣な表情で線香アロマキャンドルを焚き、念仏アプリを起動。


「我、冷蔵庫を封印する!!」


半泣きで叫んだ。


◇ ◇ ◇


翌日、事務所にて。


昼のミーティング後、休憩室で冷たいお茶を飲みながら、メグは先輩Vたちに昨夜の恐怖体験を語っていた。


「ってワケで、マジで生きた心地しなかったんスよ! 絶対出るってあの冷蔵庫!」


ソファに座っていたコウが、それを聞いて目を細めた。


「……それ、氷づまりじゃない?」


「へ?」


「冷蔵庫の音。自動製氷の排水が詰まると、そういう音する。結構ありがち」


「なっ……なにその“冷蔵庫博士”みたいなコメント!?」


「昔、うちの実家のがそうだった」


あっさり言われて、思わず言葉を失うメグ。


「……じゃあ、私の除霊の舞は……無意味だったってこと……?」


「舞ったんだ?」


「うん……フリースタイルで。めっちゃ全力で……」


「動画に撮ってないのが惜しいな」


「絶対流出させる気だったでしょ今の顔!!」


ぷくっと頬をふくらませるメグ。

だが、どこか安心したような顔をしていた。


「……でもまあ、氷づまりかぁ。なんか、いきなり怖がって損した気分……」


「いや、ちゃんと対処しようとしたのはえらいよ」


「え……」


「誰もいないときに一人で何かと戦える人って、俺、けっこう好きだな」


さらっと言って、お茶を一口。


メグは一瞬、返す言葉をなくして固まった。


(な、なにそのセリフ。……唐突すぎでしょ……)


胸が少しだけ、どきんと跳ねた。


「……そ、そっか。じゃあ今度、氷とガチバトルしたら報告してやるっス」


「楽しみにしてる」


素直に笑うコウの顔を見て、メグは思わず顔をそらす。


(やばい……褒められ慣れてないんだよこっちは……!)


そして、帰り道。


コンビニで氷を買う手を止めて、メグは小さくつぶやいた。


「……でも、まあ。困ったときにさ、ああいう感じで教えてくれるの、ずるいよね……」


冷蔵庫の音は、もう怖くない。


今の彼女にとって、それはただの、ちょっとした日常の笑い話だった。

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