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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第9章『きょうも、なんでもない一日。』

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『ちっちゃいけど、戦ってます』

春の朝、空はうすく曇っていた。


「ふんっ……今日も、やってやるもんねっ」


白瀬るる、小学六年生。

小柄な身体で、Vtuber《るる☆るん!》として活動しつつ、学校生活も家事も一人でこなす日々。

今日も洗濯物を干すため、朝からベランダで戦っていた。


脚立に登り、タオルを竿にかけようと手を伸ばす。


「あとちょっと……よし、これで……っ」


風がふわりと吹いた。


「──わっ!」


脚立がぐらりと揺れて、るるの身体がバランスを崩す。


ガタッ!


「きゃっ!」


次の瞬間、脚立ごと倒れて、尻もちをついた。


「……っつ……」


右手をついたところが擦れて、赤くなっていた。


「……だいじょぶ、泣かないもん……」


唇をきゅっと噛んで、涙をこらえる。


(子どもじゃない。わたしは一人でも、ちゃんとできる……)


だけど、じんじんと痛む手のひらを見ながら、少しだけ心細くなった。


◇ ◇ ◇


次の日の夕方。

るるはマネージャーさんとの打ち合わせの帰り、コンビニに立ち寄った。


新作のおやつを探していたら、後ろから声がした。


「……ん? るるちゃん?」


その声に、るるはビクッとした。

振り返ると、そこにはマスクをつけた男の人が立っていた。

だけど、その声は聞き覚えがあった。


「……あ……レイ、さん?」


彼――天城コウは、るるの“推しV”であり、以前のコラボで少しだけ面識があった。

プライベートで会うのは初めてだ。


「奇遇だな。帰り道?」


「う、うん。打ち合わせ帰り……」


「そっか。……手、どうしたの?」


その一言に、るるはとっさに右手を隠した。


「あっ、これは、えっと……転んだだけ。全然たいしたことないの」


「見せて」


優しくて、でも断れない声。

しぶしぶ手を差し出すと、絆創膏がずれて、赤くなった傷が見えた。


「けっこう派手にやってるじゃん。ちょっと待ってて」


コウはコンビニのレジに行き、消毒スプレーと絆創膏を買って戻ってきた。


「えっ、わざわざ……!?」


「まあ、偶然会ったってことで、おせっかいさせて」


店の外のベンチに腰かけ、コウは手際よく消毒してくれた。

るるはドキドキしながら、じっと見つめてしまう。


(……なんか、優しい。やっぱり、推しだ……)


「はい、できた。これで大丈夫」


「……ありがと。……でも」


「ん?」


「子ども扱いしないでよね。これくらい、自分でできるし」


「してないよ」


コウは真顔で言った。


「一人で頑張ってるの、知ってるから。尊敬してるよ」


その一言が、やけに胸に残った。


「……ふーん、じゃあ、今日は特別に……ありがとって言っとく」


「うん、特別に受け取っとく」


少し照れながらも笑い合って、別れ際。


るるは小さく手を振ったあと、心の中でつぶやいた。


(やっぱり……かっこいいな)


ほんの少しだけ、足取りが軽くなった帰り道。


ちっちゃな自分が、ちょっとだけ誇らしく思えた。

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