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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第8章『音だけでメシテロ!?Vキッチン対決SHOW』

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幕間デート? 白瀬るる編 『初めての“推し活”は、君の隣で。』

今日は一人で、秋葉原に来ていた。

本当は事務所の後輩と来る予定だったけど、急に熱が出たって連絡があって。

それならいっそ、気兼ねなくじっくり機材見て回ろうかなって。


私、マイクとかオーディオインターフェースとか、見るのも触るのも好き。

推し活って、何もライブやアニメだけじゃない。私にとっての“推し活”は、声をよくしてくれる機材を見つけること、なんだと思う。


人混みを避けながら、端のブースにある新製品のコンデンサーマイクを眺めていたとき。


「……あれ、るるちゃん?」


え、今、聞き間違いじゃ……

振り返ると、そこには……。


「こ、コウくん!?」


ちょっと待って、嘘、なんでここに……っ!


「あはは、そんな驚く? たまたま来てただけだよ。うちのマネージャーに“勉強してこい”って言われてさ」


信じられない……いや、むしろ“嬉しい”って感情のほうが先に来たの、何?


「そ、そっか。奇遇、だね……」


視線を合わせられなくて、私はマイクのポップガードを見つめたまま言葉を紡いだ。

でもコウくんは、まるで気まずさなんて感じてないみたいに笑ってた。


「せっかくだし、一緒に回る? るるちゃん詳しいし、いろいろ教えてほしいな」


えっ……一緒に、って、ふたりで? いやいや、それって……デ、デート的な……!?


「あ、あの、うん。い、いいよ、別に」


顔が熱い。たぶん真っ赤。心臓もうるさい。私、うまく歩けてる……?


いっしょに回りはじめてすぐ、コウくんはちゃんと私の話を聞いてくれる人なんだって、改めて思った。


「へぇ、このマイク、そんなに指向性狭いんだ」

「うん、息漏れとかルームノイズ拾いにくくて、囁き声系にめちゃ強いの」


うれしい。なんか……話してるだけで、嬉しいの。

ちゃんと“私”を見てくれてる感じがして。


でも、その後。


「るるちゃんの声、ほんと透明感あるよね。なんか、耳が洗われる感じ」


……言葉の暴力だよ、それ。


わたし、今日メイク適当だし、寝癖ちょっと残ってたかもしれないのに。

それでも「声」を褒めてくれて、真っ直ぐな目で、真顔で、そんな……っ。


「……あ、ありがと。そ、そんなこと言われたら……帰れなくなっちゃう」


「え? 帰らなくていいじゃん。まだ面白そうなとこいっぱいあるよ」


……ずるい。そんな無自覚なこと、サラッと言わないでよ。


そんなとき、上階で小さな上映イベントがあるってアナウンスが入った。


「星と音楽のシンフォニー……だって。行ってみる?」


「……い、行く。っていうか、行きたい」


返事、早すぎた。恥ずかしい。けど、それ以上に、コウくんと一緒に“何か”を観たいって、素直に思ったから。


暗いシアターの中。隣の席、狭すぎじゃない?

さっきまでは大丈夫だったのに、急に距離が近く感じてしまう。


でも、始まった映像は本当に綺麗だった。満天の星と、柔らかなピアノ。


「ねえ、るるちゃん」


急に耳元で囁かれて、私はびくって肩を震わせる。


「……な、なに?」


「……さっきの話、続き。るるちゃんって、本当に声のこと大事にしてるんだなって思った。かっこいいなって」


わたし、今、完全に……息、止まった。


どくん、って音が自分の中で響いて、胸の奥がキュッと熱くなる。


だけどそのとき、映像がフラッシュして場内が真っ暗に。

反射的に、私は隣に手を伸ばしてしまった。


「……っ、あっ、ご、ごめん、コウくん!」


……つかんじゃった。しかも、コウくんの……太もも、かもしれない……。


「わ、わざとじゃないから! ほんとに、暗くて、びっくりして……っ」


「わかってる、大丈夫。るるちゃん、手、震えてるよ」


そう言いながら、彼はそっと私の手を握り返してきた。

その手、あたたかくて、優しくて。……なんか、涙が出そうだった。


上映が終わっても、手のぬくもりがずっと残っていた。

駅までの帰り道。ネオンが滲んで、ふわふわしてる。


「……ねえ、コウくん」


「うん?」


「私ね……自分のこと、推されるタイプじゃないって思ってたの。人気出るわけないって。声も、顔も、キャラも、自信なくて」


でも——


「でも、今日ちょっとだけ、思えた。……“私”でも、誰かの隣にいていいのかな、って」


コウくんは、立ち止まって、ちゃんとこっちを向いて言った。


「もちろんだよ。るるちゃんは、すごい人だよ。……俺、今日また、好きになったもん」


「す、好きって……!?」


「声が、って意味だけどね?」


……この人、やっぱり確信犯じゃない……!?


でも、不思議。そう言われて、胸がキュッてなったけど、すごく幸せだった。


「……じゃあ、次の“推し活”も、一緒にしてくれる?」


「もちろん」


その言葉を聞いた瞬間、星よりきらきらした気持ちが、胸にぱっと咲いた。


今日は、私の新しい“推し”が生まれた日。

誰かじゃない。私自身のこと。——そして、となりにいる彼のことも。

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