『料理じゃない、これは音楽だ!? #耳グルメバトルでトレンド入り』
「……配信終了ーっ! 皆さま、おつかれさまでした〜!」
神代マネージャーの軽快な締めの声とともに、LinkLiveの特設キッチンスタジオに、ようやく静寂が戻った。
いや、厳密には**“嵐が過ぎ去った後の、耳の焼け野原”**である。
レイは、審査用チェアに座ったまま、まるで廃人のように虚空を見つめていた。
「……おれは……誰だ……ここは……どこだ……」
「お兄……もとい、レイくん……しっかりして……!」
ひよこまる♪が、涙目でレイの肩をゆさゆさと揺する。
「あなたの耳、もう何も聞こえてないの……?」
「……聞こえてるのは……チョコのとろける音と、トースターが爆発した音……それが、ずっと耳の奥でリピートしてる……」
「それ、もはやトラウマなのでは……」
ヨヨが苦笑しながら背後に立ち、ささやくように囁いた。
「レイくん……その耳に残る音は、私からのプレゼント……♡」
「返品したい……即日で返品したい……」
月詠ルイはというと、自分の調理ブースの前で腕を組んでいた。なぜか真顔。
「ふむ……やはり“ドカン”は早すぎたか……“ボン”まで抑えるべきだった……」
「爆発音を微調整しようとするな!」
そんな混乱の舞台裏とは裏腹に、SNSではとんでもない事態が進行していた。
X(旧Twitter)トレンド1位
《#耳グルメバトル》
《#音だけ料理革命》
《#レイの耳が心配》
《#トースター爆発の瞬間》
サジェストには「鼓膜崩壊」「バター攻撃」「しゅわしゅわ蒸しケーキの癒し」など謎ワードが並び、タイムラインは**“音の暴力”と“癒しの美味音”の大喜利合戦**と化していた。
特に切り抜き動画が爆速で拡散されていた。
――ルイの“猫の声”事件(正体は冷蔵庫音)
――ヨヨの「これは耳で味わう愛情です」ポエムシーン
――ひよこまる♪の「ジュワッ! きいてお兄っ!」叫び
どれも、再生回数10万を超える勢いだった。
「見て見て! わたしの唐揚げ音、海外Vさんが“ASMR神”ってリポストしてる!」
「へぇ、わたしのチョコフォンデュも“甘すぎて脳がやばい”ってコメント来てるわ」
「俺の“ぶおおおん”は“地獄の轟音”って言われてた……」
「いやそれ褒められてないからね!?」
神代マネージャーが笑顔で資料を差し出す。
「今回のバズ、公式も狙ってました。というわけで……第二弾、決定です!」
「えっ!? もう決まってるの!?」
「視聴者参加型でね。“次に聞きたい料理の音”を募集するキャンペーン、もう始まってるよ。優秀コメント投稿者には――」
「耳だけレシピボイス……!」
ヨヨがうっとりした声で続けた。
「そう、“レイのイケボで読み上げる、妄想レシピガイド”……」
「えっ、それ俺が読むの!? 聞いてない!!」
「当然よ。だって、耳だけ審査員でしょ?」
「じゃあ、お兄には“ジュワッ”ってセリフ、録ってもらわなきゃだね!」
「俺、効果音担当だったの!? もうやだあああ!」
視聴者向けプレゼントも決定した。
・“耳だけで楽しめる”レシピカードPDF(ひよこまる♪、手描きイラストつき)
・ルイの爆音SE素材集(ボイス特典:猫の鳴き声入り)
・ヨヨのささやきボイス「愛を溶かして、チョコにして」つきスイート音パック
おまけに、出演者4人が即興で考えた“妄想スイーツ”のレシピを詰め込んだガイドブックまで、PDFで無料配布が決定。
レイは、放心状態のまま最後の締めに入った。
「……じゃあ、最後に……審査員として、ひとこと……」
全員が息を呑んで見守る中、彼はボソッと呟いた。
「……次は、胃袋で審査させてください」
スタジオ爆笑。コメント欄もそれに合わせて一斉に盛り上がる。
「レイくん、胃袋で判断宣言w」
「次回は“食って判定”編か!?」
「耳が死んだら、舌で勝負だな」
「#耳グルメバトル第二弾期待」
そして、画面がフェードアウトしていく。
最後に映るのは――
『Coming Soon… #音だけじゃないグルメSHOW』
『次回、ついに“実食編”スタート!?』
こうして、“料理じゃない、これは音楽だ”とまで言わしめた伝説の企画は、音と笑いと混沌を残して、大成功のうちに幕を閉じた。




