開幕!耳が騒ぐ音フェチ料理対決!
「それじゃ――今回の新企画。“音だけで料理対決”、いってみようか」
静まり返ったLinkLive会議室に、神代マネージャーの一言が響いた。
「音だけで……料理って、どういう意味っスか?」
コウ――いや、V名として活動中の天城コウが、眉をひそめて問い返す。彼の声は相変わらずの低音イケボだが、表情は困惑そのもの。
「そのままの意味よ。目隠しした状態で、音と実況だけで料理を“審査”してもらう企画。視聴者は画面あり、審査員の《レイ》くんだけが完全ブラインド」
神代マネージャーが、手元のタブレットをタップして、モニターに新しいスライドを映す。そこにはポップなフォントでこう書かれていた。
『音でガチ勝負!?バーチャル料理対決SHOW!』
――目を閉じれば、そこは戦場。音と香りと笑いの三重奏!――
「……香りは再現できないですよね? ね?」
「まあ、そこはイメージと実況で補完してもらって。**“脳内補完型グルメバトル”**ってことで」
「やりにくいにも程があるだろ……」
「でもお兄、そういうの、好きそうじゃない?」
と、口を挟んだのは、妹系ポンコツV《ひよこまる♪》。コウの義妹、ひよりだった。彼女は椅子に座ったまま、机の上で両手をぱたぱたと揺らしてニコニコしている。
「え、俺そんなキャラだったっけ?」
「うん、なんか“感覚で捉える男”って感じがする。あと、食べ物の話になるとやたら真剣になるし」
「……完全に偏見だろそれ」
「でもまあ、料理得意なわたしとしては! この勝負、受けて立ちますっ」
「ひよこまる♪ちゃん、包丁ちゃんと使えるようになったの?」
艶のある声で問いかけたのは、《ヨヨ》。夜々だった。流れるように脚を組み替え、涼しげな笑みを浮かべている。彼女の放つ言葉には、どこか含みがある。
「へっ? そ、そんなの……前にお兄に教えてもらったし!」
「……確かに。教えたな。三回指切って泣いたあとに」
「や、やめてそのエピソード掘り返すの! 放送禁止!」
「ふふ……でも、“家庭料理の音”って、なかなか強いわよね」
「夜々さんはどんなの作るんですか?」
「わたしはそうね――音だけでとろけさせる。そんな料理を」
「出た! ヨヨさんの“耳から落とす”作戦だ!」
「ま、私にかかれば、バターの音ひとつでリスナーの鼓膜が恋に落ちるわよ?」
「耳が恋に落ちるって何……」
そんなやりとりの中、椅子の背にもたれて静かに笑っていたのは、王子系先輩V《月詠ルイ》。
「楽しそうだな。俺も、参戦させてもらおうか」
「ルイさんも!? ていうか料理できるんですか?」
「……この前、冷凍グラタンを温めた配信でバズった」
「料理じゃねぇ!!」
「いやいや、あれは“音”が良かったんだ。チーン、っていう電子レンジの音がやけにエモくてさ」
「視聴者にエモさでごまかすつもりですか!?」
「そう言うなよ、レイ。**“料理は科学と芸術”**っていうだろ?」
「それ、失敗する人の言い訳で聞くやつだ……」
神代マネージャーが笑いながら会議の空気を整える。
「じゃあ整理するよ。今回のルールは以下の通り」
・参加者は3名(ひよこまる♪、ヨヨ、月詠ルイ)
・調理中は音声と実況だけでアピール
・審査員のレイは目隠し+映像なし
・視聴者はフル映像・コメント自由
・勝敗はレイのジャッジ+コメント投票で決定
「ちなみに……ジャンルは自由。煮物でも、揚げ物でも、スイーツでも。ただし、“音と語り”が主役です。映えより音映え! 以上!」
「音映えってなんだよ……」
「で、調理ブースはアバターと連動してるから、動きに合わせてリアルタイムで物理エフェクト+ASMRマイクが作動する仕様」
「ハイテクすぎて逆に怖いんだけど」
「つまり、お兄は“耳だけ”を頼りに、わたしたちの料理を想像しないといけないの!」
「なんかエロい言い方になってない?」
「想像、してくれるんですよね……? レイくん♡」とヨヨがすかさず乗ってくる。
「……もう俺、何も言えないじゃん……」
そして――配信当日。
特設されたバーチャルキッチンには、3台のブースが並び、中央の審査席にはレイのアバターが“目隠しモード”で鎮座していた。
配信タイトル:
『音でガチ勝負!?バーチャル料理対決SHOW!』
視聴者コメント欄:
「#レイくん耳だけ審査ww」
「ヨヨさんの声で白米食える」
「ひよこまる♪ちゃん、火加減気をつけて!」
「月詠ルイ、今度は爆発しないでね」
「耳が幸せになる準備できてます!!!」
「……って、こんなテンションで本当に審査できるのか、俺……」
緊張感と笑いの渦の中、戦いの火蓋が切って落とされる。




