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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第7章《るる☆るん!》の初恋研究レポート

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幕間デート? 葛城 メグ編 『“推し”が、わたしのために手を引いてくれた日』

……それは、なんでもない日のことだった。


事務所の喫茶室。アイスティー片手に、収録後のログをチェックしてたら――


「最近、よく頑張ってくれてるからさ。何かご褒美、欲しいものある?」


って、天城コウが、何気なく、当然のように言ったのだ。


……は!?!?!?!?!?!?!?


推しが、わたしに……プレゼント? いやいやいや、待って待って、それって告白より心臓に悪いのでは!?!?!? 


「あ、あのっ、じゃ、じゃあ……」


思考が火花散らしてショートしたわたしの口から出たのは――


「一緒に、V展……行ってくれますか……?」


自分で言った瞬間に頭を抱えた。なに言ってんの、わたし!?!?!? それ仕事先のアイドルにカラオケ誘うレベルの暴挙だぞ!?


「いいよ」


「即答すなああああああああ!!!」


叫んだ。現実でも、心の中でも。


土曜日、秋葉原駅の電気街口前。


3日間悩んで選んだ服は、黒地にピンクのラインが入った、控えめなオタ女子Tシャツ。ロングスカートで少しだけ女の子っぽさを加えてみた。奇跡的にアイロンも成功した。今日は勝ちの日だ。


「よ、メグ。あれ? なんか、今日雰囲気違うな」


「え、そ、そお? やだなあ、普通ですよ普通!」


「へえ。じゃ、行こうか。俺、初めてなんだ。こういうの」


推しと行く、V展。


語彙力が全滅するかと思った。


会場は歴代の人気Vたちの展示でぎゅうぎゅう。等身大パネルの前でコウと並んで写真撮ったときなんて、「わたし、今……この空間の解像度上がりすぎて脳が処理追いついてない……」って本気で思った。


「これが君の“推し活”か」


「ち、違いますよ!? これは“布教”ですっ!」


「そっか。俺、今日すごく楽しいよ」


笑ってくれるコウの横顔が、Vのパネルよりも、ライトよりも、ずっとまぶしかった。


問題は、体験録音ブースだった。


ふたりでふらっと入って、面白半分に台詞録ってたら――


「……ん? ドア、開かない?」


「え?」


まさかの閉じ込め事件。


スタッフの手違いで、施錠されたらしく、今は誰も気づいてないらしい。しかもこのブース、防音性バッチリ。ふたりきり、照明は落ちて、距離が……近い。近い。ちか……


「え、ちょ、ちょっと! 近っ! コウ、ちょ、あの、その……!」


「悪い、ヘッドホンのケーブルが……っと、わっ」


「きゃっ!?」


……あっ。


倒れて、抱きとめられて、しかも、わたしの胸、彼の肩に……。


ぎゃあああああああああああああああああ!!!


「め、メグ、大丈夫か? 痛かった?」


「ちょ、ちょっとだけ……精神的に……!」


最悪だ……推しに、推しに、こんなとこ見られるなんて……


「……この音声、さっきの?」


ふと、コウの手元の機材から、わたしの声が流れる。


それは――デビュー用にこっそり録ってた練習ボイスだった。


『わたしなんかじゃダメかもだけど、それでも、君の隣に立ちたいって思ってて……』


止める間もなく、再生された。顔から火が出るどころか、魂が焼き尽くされた。


「聞かないでよ……まだ、デビューもしてないのに……!」


震えた声で、わたしは言った。


コウは、そっと、わたしの手を取った。


あたたかくて、迷いのない手だった。


「じゃあ――練習のつもりで言ってみて。俺が最初のファンになるから」


その言葉に、わたしの心が溶けた。


「……うん」


その一言が、ずっと言えなかった。


でも今は、声にしてもいい気がした。


無事にブースから出られたあと、わたしの中では何かが変わっていた。


秋葉原の喧騒の中、帰り道。


「……ねぇ、コウ」


「ん?」


「今日、ありがとう。……わたし、いつか、自分の声でも、君を笑顔にできるようになりたい」


少し震えたけど、まっすぐ言えた。


コウは、いつものように少しだけ目を細めて笑った。


「その時は、全力で推すよ」


推されるって、こんなに……背中を押されることなんだ。


ずっと“見る側”だったわたしが、“見られる側”になるなんて。


……でも、悪くないかも。


“推し”に、見ててほしいって思える自分になれたのなら。


次は、わたしの番だ。


──レイ先輩。


わたし、きっと、あなたの隣まで、声で辿り着いてみせるから。


だから――見ててね。世界一しあわせな“推し”の顔、しててよね?

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