『恋って……なに?――るる☆るん、真剣考察中!』
「……はぁぁぁああ~~~~~っ」
パステルピンクのベッドに、うさぎクッションを抱きしめながら、思いっきりため息をついた。
部屋には、今日の原宿でもらったショップ袋が、ぽんぽんと転がっている。
スマホの画面は真っ暗。でも、通知ランプだけが、静かにまたたいてる。
(……なんで、あんなにドキドキするの?)
顔が、まだ熱い。胸の中が、ふわふわして落ち着かない。
楽しかったはずなのに――なのに、今のこの気持ちは、ちょっと違う。
スイーツを食べたあとの幸せとか、配信がうまくいった達成感とかじゃない。
“レイ”としてじゃなく、“コウさん”として接してくれた声。
あの低くて優しいトーンが、ずっと頭に残ってて。
(しかも、かっこよすぎた……)
一人で悶えていると、スマホの通知が一瞬光った。
《コウさん:今日はありがとう。機材の件、ちゃんと復旧できた?》
「……きたっ!!」
わたしは勢いよく起き上がって、即返信。
《るる:ばっちりですっ!!ほんとに助かりました……!今日の映像、神回になりそうです✨》
数秒後に返ってきた返信。
《コウさん:それはよかった。るるちゃん、ほんと頑張ってたね。構成もしっかりしてたし、コメントの間も上手いと思ったよ》
(やばっ……褒められた……っ!!)
また、心臓が跳ねる。
なにこれ……褒められただけなのに、呼吸が浅くなるってどういう現象……?
《るる:えへへ……そう言ってもらえると、ちょっと自信出ます》
すると、コウさんの方から提案が。
《コウさん:少しだけ通話、できる?打ち合わせ兼ねて、軽く話そう》
「…………っっ!!」
スマホを抱きしめながら、思いっきりベッドに突っ伏した。
声が、聞ける。あの、あの声が。
「し、心の準備っ……心の準備が……!」
慌てて、ヘッドセットをつける。
ディスコードの通話ボタンを押す指が、ふるふる震えてる。
――ピッ。
「……るるちゃん、聞こえる?」
「……っ、はいっ……ばっちり聞こえてますっ!」
声が、耳に届いた瞬間――
世界が、変わった。
脳の奥がじんってして、心臓が跳ねて、呼吸が止まりそうになる。
耳から入ってきた声が、直接胸の中心をノックしてきたみたいに。
(な、なにこれ……やば……本気で、やばい)
「よかった。緊張してた?」
「ちょ、ちょっとだけ……その、コウさんの声、めっちゃ落ち着くから……」
「そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ、本題いこうか」
そこからは、配信の構成の話とか、どんな風にファンと接してるかとか、結構まじめな内容だった。
でも、どんなに話してても――
コウさんの声だけは、わたしの心をずっとドクドク揺らしてて。
(こんなに、誰かの“声”で、気持ちが動くなんて……)
気づけばもう30分以上話していた。
名残惜しいけど、そろそろ終わりの時間。
「じゃ、今日はこのへんで。明日また連絡するね」
「……はいっ。今日は、ありがとうございました。すごく、楽しかったです……!」
「こっちこそ。おやすみ、るるちゃん」
「お、おやすみなさい……っ」
通話が切れた瞬間、わたしはもう、うわあああああってベッドに飛び込んだ。
「………………恋、かも………………いや、これは恋だ……!」
はじめての感情に、頭の中が爆発しそうになる。
理屈じゃ、全然整理できない。
天才って言われるこの脳みそが、まるで役に立たない。
「……やるしかない……分析だ。これはるる☆るん!の、れっきとした研究対象……!」
わたしは机に向かい、ノートを開いた。
表紙に大きく書いた。
《初恋研究ノート》
そして、最初の一文を、震える手で書きつけた。
『声を聞いただけで、心臓がきゅってなるのは、なぜ?』
その答えを探す旅が――いま、始まったんだ。




