『お兄ちゃんみたいで、ちょっとカッコよすぎる』
ふわふわのピンクのクッション、リボンが散りばめられたティーカップ、
そして机の上には虹色のクリームが乗ったドリンク――まさに原宿っ!
「うわ〜〜! なにこれ……全部“映え”のかたまりじゃん!」
思わず声が出ちゃう。
わたしが興奮してるのを見て、ひよりちゃんがくすっと笑った。
「よかった。るるちゃん、元気戻ってきたみたい」
「うん……さっきはホント、泣きそうだったけど……」
視線を向けると、目の前に座るコウさんが、アイスコーヒーをゆっくり飲んでいた。
その仕草が、なんだろう……ちょっとだけ、大人っぽく見えて。
「……コウさんって、機械に詳しいんですか?」
「まぁ、少しだけね。好きだから」
「……ふふ、なんか、意外。すっごく落ち着いてたから、お仕事の人かと思いました」
「それは初めて言われたかもな。学生だからね、いちおう」
「えっ!? 学生さん……? あ、でも確かに、年齢的には……」
わたしはこっそり胸を押さえる。
さっきのトラブルのとき、真剣な顔でスマホを操作する手。
あれが、ちょっとカッコよすぎて……まだドキドキしてるの、内緒だけど。
「ひより、お砂糖そっちにある?」
「えーっと……あ、はいはい、レイ先輩」
「……って、誰がレイ先輩だよ」
「わ、ごめんっ!? いつもの癖でっ……!」
――ん? れいせんぱい……?
「……レイ、って、あのレイさん?」
思わず、声に出てた。
「え、もしかして、コウさんって……Vの……?」
「ちょ、ちょっと待って、るるちゃん、それ以上は……!」
ひよりちゃんが慌てて手を伸ばしてきたけど、もう遅かった。
私の中で、すべてのピースがカチッとはまった。
この声、このテンション、この言葉選び――間違いない。
あの、深夜テンションの神・癒し系V、レイ。
そして、ひよりちゃんの明るくて元気な喋り方は……《ひよこまる♪》!
「ええええっ!? マジ!? ほんとにっ!?!?!?」
椅子から立ち上がりそうになって、あわててクッションを抱きしめる。
「え、え、うそ、あたし……ずっとファンでっ、あの、あの回とか、コメント送ってて、あの、なまえは“うさぱん団長”で……!」
「う、うさぱん団長!?」
ひよりちゃんが目をむいた。
「えっ、コメントの常連さんじゃん!? アイコン、あのウサギの……!」
「そうそうそれ! “うさぱん”って、うさぎパンの略で……!」
「やば、めっちゃ名前聞き覚えある!」
「やばいやばい、あの回のアドリブ、マジで神でした! めっちゃ真似して、るるの配信でやったことあるくらい……!」
二人でわーって盛り上がる横で、コウさんは少し困ったように頭をかいてた。
「……ばれちゃったか」
「す、すみません!でも、すぐ気づいちゃって……声だけで、わかっちゃって……!」
「いや、嬉しいよ。そこまで見てくれてるってことだし」
そう言って、コウさんがふわっと笑った。
(あ、やば……この笑顔……ふつうに、イケボすぎる)
なんか、胸の奥がふわっとした。
好きなVさんと、こんな風にしゃべれるだけで夢みたいなのに、
“レイ”じゃなくて“コウさん”のまま話してくれてることが、なんか、すごく特別な気がして。
「あの……その、ちょっと相談したいことがあって……いいですか?」
「相談?」
「……実は、わたし、最近ちょっと悩んでて。事務所のこととか、自分の方向性とか……。るるって“賢い子”って言われること多いけど、ほんとはもっと自由にやりたいっていうか……」
気づけば、口が勝手に動いてた。
ほんとは誰にも言えなかったこと。
でも、この人なら――コウさんなら、ちゃんと聞いてくれそうな気がして。
「……もしよければ、また……お話、聞いてもらえませんか?」
「もちろん」
コウさんがすぐに言ってくれた。
迷いなく、まっすぐな声で。
ひよりちゃんが「ちょっとぉ?」ってジト目で見てたけど、あたしはもう顔が真っ赤で。
「じゃ、じゃあ……これ、わたしの連絡先ですっ」
スマホを取り出して、ディスコードIDを表示する。
コウさんはちゃんと確認して、にこって笑った。
「ありがとう。連絡するね、るるちゃん」
その“ちゃん”が、嬉しすぎて、わたしの胸はぱんぱんにふくらんでいった。
(……なんでだろ。好きとか、憧れとか、そんな言葉じゃ足りない)
わたしの中に、あったかくて、でも落ち着かない気持ちがどんどん広がっていく。
(……これって、なに?)
その答えを、わたしはまだ知らない。
でもきっと、今日からはじまったんだ――はじめての、“なにか”が。




