『王子様たちのイケボ朗読劇、開幕です♪』
「よぉし……音声チェック完了。BGMレベルOK、SEレイヤーも準備済みっと」
LinkLiveの配信スタジオ。そのブース内には、やや緊張した面持ちのコウと、相変わらず涼しげな笑みを浮かべる男がいた。
「さぁ、今日の主役、準備はいいかい? “レイ=アマギ”くん」
月詠ルイ――V歴3年、LinkLive所属の人気男性V。知的で端正な顔立ち、穏やかな低音ボイスが持ち味だが、今日はなぜか、やたらテンションが高い。
「そっちこそ……月詠さん、“イケボ王子”の名に恥じないパフォーマンスをお願いしますよ」
「おやおや、これは負けられないね」
画面の向こうでは、配信開始のカウントダウンが始まっていた。
5――4――3――
「みなさーん、こんばんはぁ! 本日の朗読劇配信、お待たせしましたっ」
\配信開始!/
\#月詠レイコラボ/
\うおおおイケボ祭り!/
\始まったあああああ!/
「今夜お届けするのは、執事とご主人様の“禁断の夜会”――」
「私たちが、“君だけの物語”を、声に乗せてお届けします」
\やばい/
\息が……/
\尊い……/
\しょっぱなから耳が溶けたァ/
\低音と高音の共演!神か!?/
画面の中央には、美麗な立ち絵――黒燕尾の執事風・レイと、貴族風白スーツのご主人様・ルイが映し出されていた。
『第一幕――月夜の館にて』
レイ(執事):「……お迎えにあがりました、ご主人様」
ルイ(ご主人様):「遅かったね、レイ。私はずっと待っていたよ」
レイ:「申し訳ございません。……お嬢様のご機嫌が麗しゅうございますよう」
\耳が幸せ/
\ねぇちょっと待ってほんとに息遣いエロい/
\これは……尊死案件です/
\誰か……救急車……/
コウは喉を軽く鳴らし、次の台詞へと移った。
「今夜は……冷えます。ですから、ご無礼を承知で……このブランケットを」
「ふふ……そういう気遣い、君らしいね。まったく、どうして君はいつもそんなに優しいのかな」
「それは……貴方の執事だからです。誰よりも、貴方の近くにいる者として」
\殺しにきてる/
\このコンビ、控えめに言って最高/
\BL界に殴り込んできたイケボ二刀流/
配信は、完全に“刺さって”いた。
(やべぇ……なんだこの反応率……)
内心で驚くコウ。実はこの朗読劇、数日前に急遽決まったコラボ企画である。
しかもテーマは「執事×ご主人様」という、どこか“BLテイスト”の濃いもの。
(俺、これで大学生男子だぞ……なにしてんだ……)
だが――画面に映る視聴者数は、すでに5000人を突破。
ルイの優雅なボイスと自分の低音が混ざり合うたび、コメントが炎上級のスピードで流れていく。
「レイ。君は、もし私が望めば……その手を取って、どこへでも連れていってくれるのかい?」
「はい。たとえ、千の夜を越えても」
\ああああああああ/
\地球が溶けるうううう/
\課金したい……この朗読に……!/
\イケボテロやめて/
\尊いの暴力/
(……やばい、俺まで乗ってきてる)
演技に集中しながらも、心のどこかでコウは笑いを堪えていた。
普段は配信に出るだけで緊張していた自分が、今や人気Vと“夢の朗読コラボ”。
そのとき――
画面外のモニターに映る裏配信管理画面に、突然ピコッと通知が走る。
《“ひよこまる”裏接続中……?》
(え……? ひより? なにして……)
神代カオルマネージャーの裏チャンネルからも、慌ただしい音声が聞こえてきた。
「やばい……ひよこまる、テンション高すぎる! えっ、乱入って、マジで!? まだ段取り――」
その瞬間、朗読劇のBGMが不自然に止まり、
次の瞬間、唐突に――可愛らしく、しかし全力の“第三の声”が割り込んできた。
『ちょっ、まって!? レーイーくーん!? 誰とそんなに仲良くしてるのー!?』
\!?!?!?/
\だれ!?/
\新キャラ!?/
\今の声、ひよこまる!?/
\どゆこと!?/
画面の空気が、ガラリと変わった――。




