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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第5章 イケボの向こうに、本当の“僕”がいる

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幕間デート?:不知火 夜々(よよ)編 「静寂の夜に灯る声」

事務所の喫茶室って、なんでこんなときだけ静まり返るんだろう。

本当に、今日は……どうして、他に誰もいないの?


「夜々さん、こんにちは。ご一緒しても、いいですか?」


その声に、私は心臓を飛ばしかけた。


「えっ、あ、天城くん……こんにちは。もちろん、どうぞ」


落ち着いて。落ち着いて、わたし。

彼はただ、偶然ここに来ただけ。別に、ふたりきりになりたかったわけじゃ――


「この前は、本当にありがとうございました。初配信前、夜々さんのアドバイスがなかったら、あそこまで自信を持てませんでした」


「そ、そんな……私はただ、ちょっと助言しただけで……。あの配信、本当に素敵だったわ。あなたの声、ちゃんと届いてた」


……やっぱり、ずるい。

その声。その目。その言い方。


敬語で話されるたびに、私が“年上”だって、痛いほど意識してしまう。

なのに、私のほうが落ち着かないのは、どういうことなの。


「実は……お礼を言いたかったのは、私のほうなの」


私は、思い切ってカバンの中を探った。

何度も出そうとして、出せなかった、あの封筒。


「これ、コンサートのチケット……なんだけど。来日してる海外のクラシック楽団で……その……前から、誘おうと思ってて……」


顔、熱い。言葉、つっかえる。

年上らしく、落ち着いて話したいのに。


彼は、ふっと笑って、封筒をそっと受け取った。


「光栄です。夜々さんと一緒に行けるなんて、楽しみです」


――ずるい。そうやって、軽く“嬉しい”って言われると、もう断れない。


でも。


(ありがとう、来てくれて。気づいてくれて)


これが、私の“小さな勇気”。


* * *


コンサート当日。

私は、自分の鏡を前にして、10回以上ため息をついた。


「……やっぱり、これ、ちょっと大胆すぎるかな」


黒のドレス。クラシカルなライン。

そして――背中が大きく開いたデザイン。


ストールを羽織れば、問題ない。

でも、会場に入ったあと、彼の前で外すって決めてる。


今日だけは、私も……“年上の余裕”を見せたい。


会場ロビー。彼は、ネイビーのジャケットに黒のパンツ。

いつもよりちょっとだけ、かっこいい。


「夜々さん……今日の装い、とてもお似合いです」


「ふふ、ありがとう。……じゃあ、行きましょ?」


私はストールを外した。

その瞬間、彼の視線が止まった気がして――

嬉しくて、でも、死ぬほど恥ずかしかった。


* * *


コンサートは、素晴らしかった。

けれど、音楽以上に心を掴んだのは、隣にいる彼の横顔だった。


まっすぐにステージを見つめて、真剣に耳を傾けて。

その瞳に、私も少しだけ、映ってたらいいな――なんて。


終演後、会場を出ると、夜空からふわりと雨粒が落ちてきた。


「……急に降ってきましたね」


「こっち、こっち。あの軒下で、少し雨宿りを……っ、きゃっ!」


つるっと滑った足元。

咄嗟に私の腕を掴んでくれたのは、彼だった。


でも――バランスを崩した彼が、そのまま後ろから私を抱きとめて。


「あっ……」


ぴたりと、背中に彼の胸。

肩越しに、彼の吐息がかかる。

そして――


「す、すみません……っ!」


そのとき、彼の唇が、背中に触れた。


「………………っ!」


背中が、火照った。

全身が、心臓の鼓動になった。


動けない。言葉も出ない。

でも、どこかで思ってしまった。


(ああ、やっぱり……この人が、好き)


* * *


帰り道、何も話せなかった。

彼も、少しだけ気まずそうで――でも、それすら愛しくて。


帰宅して、ドアを閉めた瞬間、私はベッドにダイブした。


「う、うわあああああああああああああっ……!!」


心臓が爆発しそう。

でも、背中に残る“あの感覚”は、絶対に忘れられない。


スマホを見れば、彼からのメッセージが届いていた。


『今日はありがとうございました。すごく素敵な時間でした』

『また、どこかにご一緒できたら嬉しいです』


「……もう、好きにならないわけないじゃない……」


私はスマホを抱きしめながら、瞼を閉じた。


この夜を、ずっと胸にしまっておこう。

だって、私の中で“灯り”がともったのは――この日だったから。



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