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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第5章 イケボの向こうに、本当の“僕”がいる

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「レイ=アマギ、始動」

配信開始、三分前。


LinkLiveスタジオの個室ブースで、天城コウ――いや、《レイ=アマギ》は、マイクの前に座っていた。

心臓が、トン、トン、と強く鼓動を打つ。

呼吸を整えても、手のひらに浮かぶ汗は止まらない。


カウントダウンが始まっている。


《2:59》


《2:58》


《2:57》


(落ち着け……ちゃんと準備はした。台本も頭に入ってる。スタッフともリハした。みんなも応援してくれた)


そう思えば思うほど、胸がぎゅうっと縮まっていく。

初めての“自分の名前”での配信。もう、誰の代わりでもない。


(でも――怖いんだ)


もしも滑ったら。

もしもバレたら。

もしも、誰にも“届かなかったら”。


そのとき、インカムからふっと聞こえた声。


「君の声は、もう届いてるよ。――あとは、信じるだけ」


月詠ルイの言葉だった。

穏やかで、静かで、それでいて背中を押してくれるような響き。


コウは目を閉じた。


胸に浮かぶのは、ひよりのまっすぐな視線。

夜々の冷静なアドバイス。

みなとの言葉の奥にあった優しさ。

メグの明るさに支えられたあの日々。


(そうだ。あの声たちが、今の僕を作ってくれた)


コウは小さく息を吸って、吐いた。

そして、目を開ける。


《0:03》


《0:02》


《0:01》


「……今日から、君の夜を照らす灯りになる。レイ=アマギです」


カメラが回る。

モニターに映る自分のアバターは、夜空をまとったようなダークブルーの衣装を身に着け、銀の髪を揺らして微笑んでいた。


コメント欄が、一気に動いた。


『声ヤバいんだけど!?』

『待ってイケボすぎて心臓痛い』

『ひよこまるの中の人説マジだったの……?』

『でも全然キャラ違う!これはこれで推せる』

『中の人優しそう感ある…癒される』

『あの挨拶、センス良すぎない?』


最初の一言で、空気は掴めた。

不安も、焦りも、震えも――マイクを通した“声”に乗せた瞬間、形を変えていく。


「改めまして、レイ=アマギです。これまで、ある事情で皆さんの前に立つことができなかったけど……今日からは、ちゃんと僕自身として声を届けていきます」


そして、ファンネーム募集のコーナーへ。


「せっかくだから、みんなに名前をつけたいなって思ってます。レイの夜を一緒に旅する“ともしび”たち――どうかな?」


『灯、エモすぎる』

『名乗らせてください!!灯!!』

『うわ、もうそういうセンスが天才』


その後、予定していた“即興朗読”コーナーへと進む。


読み上げるのは、ファンから事前に送られてきた“忘れられない言葉”をモチーフにしたショートストーリー。

一人語り、声の緩急、沈黙の間――どれも、コウ自身が悩み抜いて選んだ演出だった。


『泣いた』

『声の間がうまい、プロやん』

『演技力高すぎて鳥肌』

『これ、中の人ガチで役者なんじゃ?』


コメントが画面を埋め尽くす。

かつて、代役として配信していた“あの頃”とは違う。

今、視聴者は“彼自身”を見て、感じて、言葉を返してくれている。


(ああ……やっと、届いたんだ)


配信終盤、コウはふっと笑った。


「今日は、本当にありがとう。これからも、夜の旅を一緒にしてくれると嬉しいな。――おやすみ、“灯”たち」


静かに手を振り、画面はフェードアウトしていく。


* * *


配信が終わり、機材ブースの椅子に沈み込むコウ。

背中には、じんわりと汗。けれど、その顔には確かな達成感があった。


タブレットに通知が来る。

《月詠ルイ》からのDMだった。


『お疲れ様。最高の夜だったよ』

『飯、行こうか? 感想戦、しよ』


コウは一瞬吹き出しそうになって、それから静かに笑った。


「……はい、ぜひ。ルイさん」


画面の向こうに“誰か”がいて、声が届いて、想いが返ってくる。

その感触が、何よりも嬉しかった。


灯は、灯りを照らしてもらっているだけじゃない。

自分もまた、誰かの暗闇を照らす存在になれる。


“レイ=アマギ”の夜が、今――始まったのだった。



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