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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について  作者: のびろう。
第4章 『ありがとうの予行演習、恋のはじまり』

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「重なる声、すれ違う想い」

「マイク、問題なし。BGMテスト入ります」


スタジオ内の照明が少し落ち、収録用の機材が本格的に動き出す。

防音の静寂の中、イヤモニから流れるカウントが心拍と重なった。


(よし……落ち着け、俺)


今日は、みなととの“本番収録”。

配信ではなく、ユニット楽曲の先行ボイス版として録る予定の、正式なデュエットだった。


隣に立つみなとは、緊張というよりも、覚悟を秘めた表情でマイクに向かっていた。

“ありがとうの予行演習”――あの言葉が、ずっと俺の中で反響している。


「いける?」


「うん、大丈夫だよ」


小さく頷いた彼女に、俺は合わせて微笑む。


録音スタートの合図が出て、曲が始まる。


♬ 「あの日 星に願った想いが 今ここにあるよ」


序盤はみなとのソロ。

それを受けて、俺のパートが続く。


♬ 「声にならなかった気持ちを 君が拾ってくれた」


そして、二人のハーモニーが重なったとき――

俺はふと、みなとの視線が、ほんの一瞬だけ鋭くなるのを感じた。


(……ん?)


彼女の口元は自然なまま。でもその瞳だけが、どこか探るように揺れていた。


 


曲は進む。


サビ前のセリフパート――

事前に打ち合わせしたアドリブ枠だ。


「……ありがとう。あの日、君が声をかけてくれたから」


みなとの声がマイクに乗る。

その声は揺れていて、どこか不安げだった。


「今、わたしの隣で歌ってるこの人が……

あの“レイ=アマギ”さんみたいに、優しくて――」


そこで一瞬、言葉が詰まった。


俺の中に、何かが引っかかる。


(え、今……なんて?)


「……いや、ごめん、やり直してもいい?」


彼女は急に録音を止め、スタッフに合図を送った。


「みなと?」


「ううん、大丈夫。ちょっとだけ、頭の中整理したくて」


みなとはにこっと笑ったが、その目だけが冗談じゃなかった。


俺の胸に、妙な緊張が走る。


まさか……バレてきてる?


 


少しの休憩を挟んだあと、再録音が始まる。

今度はスムーズに流れていったが、彼女の視線はたびたび、俺を捉えていた。


「この声……やっぱり似てる。いや、似すぎてる」


収録を終えてブースを出た瞬間、みなとはぽつりと呟いた。


「え?」


「ううん、独り言。……でも、気になるよね、誰でも」


みなとは俺の目をまっすぐに見た。


「レイ=アマギさん。……配信では何度も聴いた声だよ。

あんなに綺麗にハモれる人、そんなにいないと思うし……」


「……」


「ねえ、コウくん。もし、もしなんだけど――」


「もし、俺が……中の人だったら?」


言ってから、自分でも驚いた。


けれど、彼女の探るような目に、逃げることができなかった。


「……そうだったら、どう思う?」


一瞬、みなとの表情が止まる。

けれど、それはすぐに――柔らかな微笑みに変わった。


「そっか。やっぱり……そうだったんだ」


「えっ、ちょ、違――!」


「ううん、大丈夫。今の顔で、確信したから」


はにかんだように笑って、みなとは首を振る。


「コウくんの声、ずっと大好きだった。

でも……“中の人”だったってわかっても、気持ちは変わらないよ」


俺は、言葉を失った。


(バレた。けど、責められなかった。……むしろ、受け止められた?)


「ありがとう、教えてくれて。コウくんが誰であっても――

“今のあなた”が、ちゃんと、わたしの隣にいてくれるから」


 


その言葉が、胸に深く刺さった。


何者でもなかった俺が、“誰か”として見つめられる。

その視線が、嬉しくて、こそばゆくて、でも少しだけ――怖かった。


(今のみなとは、“俺”を好きでいてくれる)


けれど、この先、もっと大きな波が来たとき。

俺は、この関係を守れるだろうか?


答えはまだわからない。


でも――彼女の言葉が、その手が、

今の俺にとっては、何より確かな“つながり”だった。

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