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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について【7万PV感謝】  作者: のびろう。
第21章 視聴者の命令は絶対!?コメントで動かす24時間LinkLiveハウス!
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パジャマと本音と、最初の“命令”

「――それでは皆様、お待たせいたしました! これより24時間、LinkLiveが総力を挙げてお送りする地獄の……もとい、夢の共同生活配信、『視聴者の命令は絶対!?ドキドキ♡LinkLiveハウス!』スタートです!」


 神代カオルマネージャーのハイテンションな開幕宣言が、事務所内に特設されたリビングルームに響き渡った。

 壁には複数のモニターが設置され、リアルタイムで流れる視聴者コメントとアンケート用のグラフが表示されている。部屋の中央にはふかふかのソファとローテーブル。その周りに、これから24時間を共に過ごす俺たち――天城コウと6人のヒロインたちが、ぎこちなく集まっていた。


「……あの、神代さん。開始早々なんですけど、俺の胃がすでに限界を訴えてるんですが」

「大丈夫よ、コウくん。ちゃんと胃薬は経費で落ちるから安心して」

「そういう問題じゃないんですよ!」


 俺の悲痛な叫びも虚しく、コメント欄はすでに凄まじい速度で流れていく。

《きたああああ!》《伝説の始まり》《コウくんの胃、がんばれ》《ヒロイン全員可愛すぎて画面割れた》

……うん、通常運転だな。


「お、お兄ちゃんと……お泊り……」

 俺の隣で、義妹のひよりが顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声で呟いている。その手はぎゅっとスカートの裾を握りしめていた。


「落ち着きなさい、ひよりちゃん。まだ始まったばかりよ。……それにしても、視聴者の命令ねぇ。くだらない命令だったら、即刻配信を切らせてもらうわ」

 ソファの対面に座る不知火夜々さんが、優雅に脚を組みながら言う。いつも通りの女王様然とした態度だが、その指先がかすかに震えているのを俺は見逃さなかった。


「いや〜、でも逆に燃えません!?視聴者の無茶ぶりに応えてこそ、プロのVっしょ!」

 ヘッドセットを首にかけた葛城メグが、キラキラした目でモニターを見つめている。彼女にとっては、このカオスな状況すら最高の“推し活”の一環なのだろう。


「……なるほど。視聴者の可処分時間を最大限に奪うための、中毒性の高い企画設計。参考になります」

 冷静に分析するのは真白みなとさん。彼女はすでにタブレットを取り出し、何やらメモを取っていた。仕事熱心すぎる。


「るる、お泊り会わくわくです!みんなで枕投げとかするんですか?」

「いのりも……その、皆さんと仲良くなれるよう、がんばります……!」

 年少組のるるちゃんといのりちゃんは、緊張と期待が入り混じった表情で辺りを見回していた。


 そんな和やか(?)な空気を切り裂くように、神代さんの声が再び響く。


「さーて!それでは最初のイベントに参りましょう!お泊り会といえば……やっぱりコレしかないわよね!」


 スクリーンに、でかでかと文字が映し出される。


【最初の命令】全員、パジャマにお着替えしてお披露目会!


「「「「「「はぁ!?!?」」」」」」


 俺とヒロインたちの声が、見事にユニゾンした。


「い、いきなりですか!?」

「心の準備が……!」

「っしゃああああ!見せつけてやるぜ、俺の勝負パジャマ!」

「……え、わたし、普通のTシャツしか持ってきてないんですけど」


 大混乱の中、俺たちは半ば強制的にそれぞれの個室へと追いやられた。

 数分後、リビングに再集合した俺の目の前には――もはや天国か地獄か判別不能な光景が広がっていた。


「お、お兄ちゃん……ど、どうかな……?」

 最初に現れたひよりは、うさ耳フード付きのモコモコなロンパース姿。あざとさの権化。裾から覗く素足が妙に生々しくて、どこに目をやればいいのか分からない。


「……べ、別に、あんたのために着てきたわけじゃないんだからね。ただ、これが一番寝やすいだけよ」

 次に登場した夜々さんは、光沢のある黒のシルクネグリジェ。肩から滑り落ちそうな細いストラップと、大胆に開いた胸元。完全に“見せる”ためのパジャマだ。ツンデレなセリフとのギャップで、コメント欄が《尊死》の四文字で埋め尽くされている。


「私は……これしか持ってこなかったんだ。ごめんね、地味で」

 みなとは、シンプルな白のTシャツにグレーのショートパンツという、実に彼女らしい装い。だが、その飾らない自然体な姿が逆に視聴者の心を掴んだのか、コメント欄では《分かってる》《これが一番ヤバい》と謎の絶賛を浴びていた。

「……もし、わたしとペアになったら……きっと、美味しいごはん、作れると思うな。レイくんの好きなもの、ちゃんと知ってるから」

 静かな声だったけど、その言葉には幼なじみだからこその、ほんの少しだけ踏み込んだ響きがあった。


「見てくださいよレイ先輩!このTシャツ、月詠ルイ先輩のデビュー記念限定グッズなんスよ!やばくないスか!?」

 メグは案の定、推しVのグッズTシャツだった。満面の笑みでTシャツのルイ先輩を指差している。うん、ブレないな君は。


「るる、これ着てるとよく眠れるんです!ふわふわですよ〜」

「いのりは……その、清楚な感じで……」

 るるちゃんはクマのぬいぐるみを抱えた愛らしい姿、いのりちゃんは白いワンピース風のパジャマで、恥ずかしそうに俯いている。


 ……うん、全員可愛い。可愛いが大渋滞してる。

 俺はと言えば、ごく普通の無地のスウェットだ。コメント欄の《コウくんの“彼氏感”パジャマ》という評価が、まったくもって理解できない。


「さーて、全員の可愛いパジャマ姿が出揃ったところで!いよいよ最初の“視聴者アンケート”に参りましょう!」


 神代さんの声で、スクリーンにアンケート画面が映し出される。


【最初の命令】夕食の買い出しに行くペアを選べ!


① レイ & ひより(王道兄妹ペア)

② レイ & 夜々(大人な先輩後輩ペア)

③ レイ & みなと(クール同級生ペア)

④ レイ & メグ(限界オタクと推しペア)

⑤ レイ & るる(年の差ほのぼのペア)

⑥ レイ & いのり(ぎこちない初々しペア)


「なっ……なんで俺固定なんですか!?」

「だって、コウくんがいないとラブコメ始まらないでしょ?」

「始まらなくていいんですよ、波乱は!」


 俺の抗議をBGMに、ヒロインたちによる熾烈なアピール合戦が始まった。


「み、みんな!ひよりに入れてください!お兄ちゃんと二人きりでスーパーとか、夢なんです!」

「ふん、子供の買い出しごっこに付き合う気はないわ。……でも、もし視聴者が望むというのなら、私が“大人のお店”に連れて行ってあげなくもないわよ?」

「……客観的データに基づくと、最も効率的な買い物が可能なのは私とのペアです。食材の選定から予算管理までお任せください」


 三者三様のアピールに、投票グラフが目まぐるしく変動していく。最初はひよりが優勢だったが、夜々さんの“大人”というワードに一部の視聴者が食いつき、グラフが急伸。さらに、みなとさんの堅実なプレゼンが主婦(主夫)層の票を集めているようだ。


「うおおおお!みんな!俺とレイ先輩のペアが見たくねぇか!?スーパーで“今日の特売品”について熱く語り合うレイ先輩、絶対見たいだろ!?」

「るるは、レイくんと一緒にお菓子いっぱい買いたいです!」

「わ、わたしは……その、レイ先輩の好きなものを、聞きたい、です……」


 メグ、るるちゃん、いのりちゃんも参戦し、戦いは混沌を極める。

 俺はただ、この公開処刑が早く終わることだけを願っていた。


「さあ、投票締め切りまであと10秒!9、8、7……!」


 グラフは最後の最後までデッドヒートを繰り広げ――そして、無慈悲な電子音と共に結果が表示された。


【結果発表】買い出しペアは……『② レイ & 夜々』に決定!


「………………え?」


 一瞬の静寂。

 そして、ひよりの「うそぉぉぉぉぉぉっ!?」という悲鳴と、夜々さんの「……っ!」という息を呑む音が同時に響いた。


 当の夜々さんはといえば、「べ、別に嬉しくなんかないんだからね!」と顔を背けているが、その口元がわずかに緩んでいるのを、俺は見逃さなかった。完全にデレる準備に入っている。


「……というわけで、レイくんと夜々ちゃんは買い出し、お願いね♡ 残りのみんなは、お留守番してて!」

 神代さんの明るい声が、天国と地獄に分かれたリビングに響き渡る。


「うぅぅ……お兄ちゃんのばかぁ……夜々さんの誘惑に負けないでよ……」

 ソファでクッションを抱きしめて完全に拗ねているひより。


「これは……まさかのNTR展開導入ッスか!?熱い!カメラさん、二人の道中もしっかり密着お願いします!!」

 なぜか興奮気味のメグ。


 俺は、隣で勝ち誇ったような、それでいて緊張でガチガチになっている夜々さんの横顔をちらりと見て、深く、ふかーいため息をついた。

「……行きますか、夜々さん」

「え、ええ。せいぜい私を楽しませなさいよね、後輩」


 強がりなその声が、少しだけ震えている。

 これから始まるのは、ただの買い出しか、それとも新たな戦いの序章か。


 特設ハウスに残されたヒロインたちの嫉妬と期待の視線を背中に浴びながら、俺と夜々さんは、気まずい沈黙と共に夜のスーパーへと向かうのだった。

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