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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について【7万PV感謝】  作者: のびろう。
第19章 るる☆るん!小学生最後の夏休み、偶然のデート♡
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胸にしまう、特別な一日

 港のライトアップをあとにして、駅までの道を歩く。

 夜風は少し涼しくて、ジャケットのぬくもりが心地いい。


「……るるちゃん、眠くない?」


「だ、大丈夫です……でも、ちょっとだけ……ふわふわしてます」


 ふわふわなのは、きっと海風だけじゃない。

 今日の全部が、夢みたいで。


 駅に着くまでの道で、コウさんはずっとゆっくり歩いてくれた。

 私の足の長さに合わせるみたいに、半歩後ろで。


「今日の取材、本当に助かったよ。

 るるちゃんがいてくれたから、いい絵が撮れた」


「そ、そんな……わたしこそ……すごく楽しかったです!」


 口にした瞬間、胸が熱くなる。

 “取材”って言いながら、心はぜんぶ“デート”って思ってる。


(私……今日のこと、一生忘れない……)


 駅のロータリーに着くと、夜風に吹かれた髪をそっと直してくれる手があった。


「……髪、乱れてるよ」


「っ……!」


 その一瞬で、心臓がまた跳ねる。

 目が合うと、何か言いたくなったけど——

 唇が勝手に震えて、声にならなかった。


「じゃあ、ここで……」


「……はい」


 離れたくない、って思った。

 でも、言えなくて。

 代わりに、私は小さく息を吸って——


「……今日は、本当に、ありがとう……」


 コウさんが優しく微笑んだ。


「また、一緒に行こうな」


 その一言が、胸にぎゅっとしまわれる。

 ——もう、これは完全に特別なデート。


 電車の窓に映る夜景が、ゆっくり遠ざかる。

 胸の中はあったかくて、寂しくて、幸せでいっぱいだった。


(……また会いたいな。次は……どこに行けるかな)


 家に帰ると、リビングは真っ暗だった。

 パパもママもまだ仕事で、誰もいない。

 玄関で靴を脱いだ瞬間、静けさが今日の出来事を一気に思い出させた。


「……はぁ……夢みたい……」


 制服に着替える前に、ベッドにダイブする。

 頬がじんじん熱い。心臓はまだドキドキしている。


 スマホを開くと、撮影で撮った思い出写真が並んでいた。

 動物カフェで子猫に埋もれてる私。

 観覧車から見下ろす海と、隣にいたコウさんの横顔。

 そして——夜景に照らされて笑う私。


(……全部、わたしの宝物だ……)


 何度もスワイプして、笑って、胸がきゅんとする。

 ——もう、誤魔化せない。


(私……お兄ちゃんのこと、好きだ……)


 心の中で、はっきり言葉になった。


 そのとき、ピロンと通知音が鳴る。

 画面を見ると、コウさんからのメッセージだった。


今日はありがとな。すごくいい写真が撮れたよ。

また、夏のうちにどこか行こうな。


「……っ!」


 布団に顔を埋めて、全身が熱くなる。

 指が震えて、すぐには返信できなかった。


(また……行こうって……!)


 胸の奥がじんわり温かくなる。

 次に会える日のことを想像しただけで、心が踊る。


 夜風が窓を揺らす音が、遠くの花火みたいに響いた。

 ——小学生最後の夏休みは、きっと忘れられない恋の季節になる。


 ベッドの上で、スマホを抱きしめたまま目を閉じる。

 夢の中でも、きっとあの夜景と、彼の笑顔が浮かぶだろう。


(次は……もっと、近くで——)

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