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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について【7万PV感謝】  作者: のびろう。
第18章『ボクとイケボと恋心と!』〜恋愛シミュ実況が修羅場すぎて泣けてきた〜
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切れてなかったマイク、届いてしまった“本音”

……あ。


ボクの声が、空気を震わせて、どこまでも拡がっていった気がした。


ほんの小さな、つぶやきだったはずなのに。


「……ほんとに、コウくんのこと……好きになっちゃいそうで……こわい……」


それは、ボクの胸の奥でひっそりと隠していた“気持ち”だった。

演技の最中に溢れかけて、ずっと抑えてた“本音”だった。


それが、まさか――


マイク、切れてなかったなんて。


「えっ」

「今の、聞こえた……よね……?」

「え、え、え、ガチじゃん!?!?」

「これ、台本にないでしょ!?!?!?」


コメント欄が、一気に燃え上がる。


想像以上の速度で、言葉が流れていく。

そのどれもが、ボクの頭の中に突き刺さる。


体温が一気に急上昇するのを感じた。


「う、うそ……っ!? 今の……配信に……!?」


慌てて顔の前のモニターを見た。小さなマイクアイコン――“ミュート”にはなっていなかった。


ヤバい。やってしまった。


あれは完全に、ボクだけの“裏の声”だったのに……。


背中に、冷たい汗が流れる。


目の奥が熱くなって、言葉が出ない。


「……っ……ごめ……なさ……」


絞り出すような声で、謝ろうとしたそのとき。


――彼が、静かに振り向いた。


ゴーグル越しの視線ではない。

真正面で、リアルに目が合った。


コウくん。


彼の顔は、どこまでも優しくて、驚きでも困惑でもなく……ただ、やわらかな微笑だった。


「……いのり」


ゆっくりと、名前を呼ばれて。


鼓膜が震える。心臓が跳ねる。


「今日の配信、ありがとう。すごく、よかったよ」


たったそれだけの言葉なのに――

どうして、こんなに安心して、泣きそうになるんだろう。


声が、やさしすぎるよ。


ボクの全部を、ちゃんと受け止めてくれたみたいな、その言い方が――ずるすぎるよ。


「……っ……あ、あの、ほんとに、ごめんなさいっ、ボク……!!」


顔を伏せながら、頭をぺこぺこと下げた。


でも、レイくんは何も責めなかった。


笑ってただけ。


まるで、“なにもなかったこと”にも、“全部知ってること”にも、できる人の笑顔。


それが、逆に胸を締めつけた。


「この空気やばい」

「これ、続編あったらどうなるの……」

「レイ……なんでそんなやさしいんだよおおお」

「Inori∞Linkちゃん、世界で一番守られるべき存在では……?」


視界の端で、コメントはまだ流れている。


でも、それすらも遠く感じる。


ボクの中で、何かがはっきりした。


たぶん、もう“戻れない”。


これはもう、“演技”のふりをしてごまかせる距離じゃない。


ボクは……きっと、本当に――


「配信、終了します。お疲れさまでしたー」


スタッフの声と同時に、ディスプレイがブラックアウトする。


目の前の映像が消え、スタジオの白いライトが天井から降り注ぐ。


でも、消えなかった。


ボクの中に残ってる、“あの声”の余韻が。


『……好きだ。ずっと、そばにいてくれ』


『ありがとう。すごく、よかったよ』


繰り返し、繰り返し、何度も再生される。


あんなの、ズルいよ。


まるで、本当に“好き”って言われたみたいで――


嬉しくて、怖くて、涙が出そうで。


「……レイ、くん」


ボクは、そっと彼の名前を呼んだ。


彼は何も言わずに、ただ目を細めて、小さくうなずいた。


その笑顔だけで、しばらく動けなかった。


ほんの数分後。


SNSでは、トレンドワードに《Inori∞Link 告白事件》《レイの本気ボイス》《マイク切り忘れ大事故》が並んでいた。


視聴者たちは大騒ぎ。

神代マネージャーは「まぁ、これも“想定内”よ」と意味深な笑み。

メグ先輩からは即座に「ねぇねぇ本音出ちゃった後の気持ちってどう!?ねぇねぇ!?」と爆弾LINEが飛んできた。


でも、ボクの心は――まだ、あの“屋上”にいた。


あの夕陽の中。


あの声が、確かに届いた場所で。

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