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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について【7万PV感謝】  作者: のびろう。
第18章『ボクとイケボと恋心と!』〜恋愛シミュ実況が修羅場すぎて泣けてきた〜
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演技のはずが、本気に聞こえてしまって

「選択肢①、『ずっと、そばにいてもいいですか?』が決まりました」


スタッフさんの無機質な声が、かえってボクの鼓動を跳ねさせた。


画面がゆっくりとフェードインし、校舎裏の静かな夕暮れ――。


ヒロイン(=ボク)が勇気を出して、攻略キャラ(=レイくん)に“本音”を伝える、そういうイベントシーン。


でも、もう今のボクにはわかってる。


この台詞は「演技」であるはずなのに……言ったら、何かが壊れる気がする。


それでも、配信は進んでいく。


コメント欄がどんどん沸騰していく。


「来た来た来たーー!」

「これは事件の予感」

「いのりんく、マジがんばれ!」


ああ……もう逃げられない。


だから、震える声で、言った。


「……ずっと、そばにいても……いいですか……?」


小さくて、弱々しい、けど、全部こもってる声だった。


ボク自身が思っていたよりも、ずっと“本気の声”だった。


「――もちろん。君がそう願うなら、何度でも答えるよ」


レイくんの返事は、落ち着いてて、優しくて、どこか“全部分かってる”みたいな響きで。


画面の中、アバターの彼が手を差し伸べてくる。


「じゃあ……まずは、手。繋ごうか?」


ゆっくりと、手を重ねられる演出。


実際にはVRゴーグルの中だけの接触なのに、なぜか本当に手を取られたみたいに、体温が上がった。


「う、うん……」


「やばいこれ、完全に告白イベ」

「レイの声、甘すぎてしぬ」

「ってか今の“うん”素だよね!?」


……リスナーのみんな、よく見てるなぁ。


ていうか、ボク、自分で自覚してる。


「演技の“うん”」じゃなかった。


完全に、“コウくんに手を取られた”リアルな反応だった。


次のシーン、教室での二人きり。


イベントは日常回だけど、ここから“攻略キャラ”がグイグイ来るターン。


レイ:「髪、跳ねてるな。ちょっと待って……はい、直った」


アバターの手が、ボクの髪にそっと触れる。


(えっ、嘘、今のタイミングで!?)


「ありがと……ふぇっ?」


突然の“頭ポンポン”演出。


こ、これは反則! 反則すぎる!


「頭ポンポン!?!?!」

「レイ〜〜〜〜〜〜!!!」

「Inori∞Linkちゃんの“ふぇっ?”が天使」


「~~~っ、ちょっ、そ、そういうのは心の準備っていうか、あの、えーと……っ!」


「演技だよ?」


……って、その声で言うのズルいんですってばぁ!


もう、わかんない……どこまでがセリフで、どこまでが本音で、どこまでがレイくんの“仕事”で、どこまでが……コウくんの“気持ち”なのか。


(演技なのに……なんで、こんなにドキドキするの……?)


次のイベントは、図書室。


ストーリー的には“秘密の共有”がテーマの、感情が深まる回。


攻略キャラは、ヒロインが落としたハンカチに気づいて、そっと返しながら言う。


レイ:「……君の持ち物って、なんだか“君らしい”よね。柔らかくて、あったかくて、優しくて……。なんか、触れてると安心する」


その声が。


耳元で囁くように、ボクの“防御”を全部溶かしていく。


(ダメだよそんな声。そんなの、恋しちゃうに決まってる……)


「……あ、ありがと……」


「表情やばくない?ってか絶対赤面してるでしょこれ」

「演技じゃなかったらどうする!?って思ってたら泣けてきた」

「いのりんく、恋って知ってしまった顔」


うん、知ったかも。


「恋」って、こういう気持ちなのかもしれないって。


頭じゃ「演技」だってわかってるのに、心がそれを否定してくる。


だってレイくんは、優しくて、ちゃんと見てくれてて、ちゃんと“いのり”として接してくれてる。


「……ボクが、ボクじゃなくても、こんなふうに、優しくしてくれるのかな」


小さな独り言を、誰にも聞かれないように呟いた。


そのとき――


「いのりちゃんは、いのりちゃんだよ。……他の誰にもなれなくていい。ボクは、君が“君のまま”でいてくれるのが、一番うれしいから」


「――っ!!」


今の……“セリフ”じゃない。


画面には、セリフウィンドウが出てなかった。


つまり、今の言葉は“アドリブ”だ。


(やっぱり……レイくん、何か、感じてくれてる?)


気づけば、配信を忘れて、じっとレイくんのアバターを見つめていた。


(もしかして、これは……“演技”の中に、混ざった“本音”なんじゃないか)


そう思った瞬間、心が跳ねた。


そして、怖くなった。


このままじゃ、ボク、ほんとに――

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