エピローグ『恋と波の、そのあとで』
──翌日、LinkLive事務所・喫茶スペース。
「ん~~~~~~っ……」
みなとが背筋を伸ばして、ふにゃっとソファに沈む。
テーブルには、アイスティーと差し入れのスイカゼリー。そして、そこには──
「全員、無事に生還しました……!」
メグが白目を剥きながら、テーブルに突っ伏していた。
「無事、って言っていいのかな? るるちゃん、GIFだけで3万回再生されてるにゃ」
るるがカフェラテをちびちび飲みながら、虚空を見つめる。
「私なんて……“スク水投げキッス”が“新たな扉を開いた”って言われてるんですけど……!」
いのりは頬をぷくーっと膨らませたまま、スマホで検索ワードを消そうと格闘している。
「バズったから、よしとする!」
夜々がグラスを掲げて笑うと、他のメンバーもつられて吹き出した。
あのVRビーチの戦場を乗り越えた者にしかできない、乾杯の笑みだった。
──そして、ちょっと離れた窓辺の席で。
「……ひよりちゃん、元気出た?」
コウが、少しだけ優しい声で問いかける。
ひよりは、じーっとアイスの棒を見つめたまま、小さくうなずいた。
「うん……昨日ね、コメント欄見返したの。そしたら、すごくいっぱい、“がんばってて偉い”って言われてて……泣いた」
「……そっか」
「でも、一番嬉しかったのは……」
そこまで言って、ふいに顔を赤らめる。
「お兄ちゃんが、“ひよりとしても似合ってた”って言ってくれたこと……かも」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙。
そして、ふたりは同時に咳払いをした。
「──あっ! そういえば次回イベント、決まってますよ!」
と、メグが唐突に話をぶった切る。
「はいこちら〜。来月は《温泉リベンジロケ企画》でーす!」
「温泉……って、ことは……また、脱ぐの……?」
ひよりの顔が真っ青になる。
「ご安心を。ちゃんと“バスタオル付きアバター”と“湯気フィルター”がついてます。※ただしランダム」
カオルがにこやかに紅茶をすする。
「ランダムはダメにゃああああああああ!!!」
るるが頭を抱え、いのりが悲鳴を上げ、夜々が笑いながら肩をすくめる。
「──だいじょうぶ。また“みんなで”乗り越えるんでしょ?」
みなとの言葉に、誰からともなく、うん、と頷く声が重なった。
仲間たちと、ちょっぴり照れくさい思い出と、
そして、“ひと夏の黒歴史(名シーン)”を胸に。
LinkLiveは今日も、にぎやかで、ちょっとだけ恋の予感がして──
「なあ、ひより」
ぽつりと、コウが言った。
「次のイベントでも、また頑張ろうな。“ひよこまる”としても、君としても」
「……うんっ!」
ぱぁっと咲いた笑顔は、太陽よりもまぶしかった。
──恋と波の、そのあとで。
LinkLiveの夏は、まだまだ続く。