ファンサは戦場!?恋と汗と、灼熱のビーチで
夕陽が、VRビーチの空を黄金色に染めていく。
“夏祭りダンス”の強制モードが終わり、視点カメラも通常モードに復帰。
波の音と、風のBGMが静かに流れるなか──
ヒロインたちは、砂浜に座り込んでいた。
「……つかれたぁぁぁあああ」
みなとが大の字になりながら、砂の上でぐったり。
「にゃー……体力の限界にゃ……スイカ割ってる場合じゃなかったにゃ……」
るるは耳フードを脱ぎかけたまま、ぺたんと座り込んでいる。
「これもう、ファンサっていうか戦場だったでしょ」
夜々はタオルで汗を拭きながら、にやりと笑う。
「……でも、楽しかったね」
いのりがぽつりと呟いた。
あれだけ騒いでいたのに、不思議と誰も文句を言わなかった。
バグって、笑って、恥ずかしくて、でも……“見られた”ことが、なぜか嬉しかった。
「……あ、お兄ちゃん……いた」
ひよりが立ち上がり、画面越しのレイ(=コウ)を見つける。
「こっち、来てくれる……?」
コウは少し戸惑ったあと、うなずいて、ひよりのアバターのもとへ歩いてきた。
二人の距離が、ふわりと近づく。
「……今日は、ありがとう。配信、手伝ってくれて」
ひよりは、視線を伏せながらぽつりと言った。
「ううん。頑張ってたの、ひよりのほうだよ」
「うぅ……恥ずかしいこといっぱいあったのに……お兄ちゃんが見てたなんて……」
その声は、照れと嬉しさが入り混じった、女の子の“素”の声だった。
「でも……見てくれて、よかったのかも。だって、今のわたし、“ひよこまる”だもん」
顔を上げて、微笑む。
──その笑顔に、コウは素直に言葉を返した。
「水着、すごく似合ってた。……ひよこまるとしても、ひよりとしても」
「……ばか」
ぽふっ、と砂浜にタオルを投げつけるひより。
でも、その横顔は──ちょっと、嬉しそうだった。
* * *
一方その頃、神代カオルはモニタールームでログ解析中。
「再生数、配信中で300万越えか。アーカイブも含めたら……ふふ、また記録更新ね」
「今回、絶対伝説になりますよ……色んな意味で」
メグがぼそっと呟きながらアイスを食べている。
「るるさんの転倒シーンがGIFで出回ってるにゃ」「ひよりの“ぷいっ”ポーズ切り抜かれてバズってる」「夜々さん、謎の投げキッスシーンでカメラ燃えてた」など、SNSも炎上寸前の盛り上がりだった。
でも、誰も怒ってなかった。
全員、ちょっとだけ、照れて、笑って、胸を張っていた。
「なあ……これ、成功だったのか?」
コウがぽつりと聞くと、カオルは軽く肩をすくめた。
「大成功。ちょっと“映りすぎた”けどね」
「“ちょっと”ですかね……?」
「でも、ほら。全員、“見られてよかった”って顔してる」
画面の向こう、沈む夕陽のなかで──
ヒロインたちが、それぞれのやり方で、最後のポーズを決めていた。
「せーのっ、LinkLiveっ!!」
パシャリ。
画面に、一瞬だけ表示される。
【最高の夏を、あなたと。LinkLive VRビーチ撮影会──完】