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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について【7万PV感謝】  作者: のびろう。
第15章『ドジっ子夜々、バイノーラルで恋を囁く!?』
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バズってる……わたしの黒歴史が

——朝起きたら、世界が燃えてた。


いや、正確には“私の黒歴史”が、日本全国にトレンド入りしていた。


スマホの通知、999件オーバー。

DM、100通以上。

ファンレター用のメアドには、**「あの囁きで人生変わりました」**なんて熱烈なメールまで来てて……。


「うっわ……やらかした……」


ベッドの中、毛布をかぶってうずくまる。

世界からの逃避モード。


そう、あれは完全に事故だったのよ。

台本にないセリフを、演技って誤魔化しきれないテンションで囁いて、

しかもそれを全体公開の本番枠で流してたとか……ほんと、地獄か?


(なんで、限定公開チェック外れてたのよ、スタッフぅぅぅ!!!)


叫んでももう遅い。

SNSはまさに炎上未満、歓喜以上、祭り状態だった。


 


>「レイ×ノワール、これガチでしょ!?」

>「あの囁き……リピ50回しました。耳が溶けました」

>「演技派かと思ったら、感情ダダ漏れじゃねぇか!!(最高)」

>「夜々さん、テンパってマイクぶっ叩いたとこも可愛すぎる」


 


「……恥ずかしすぎて死ぬ」


枕に顔を埋めて、のたうち回る。

でも、止まらない。TLも、通知も、心臓のバクバクも。


(しかも……レイの、あの一言)


「……僕も、すきですよ」


アレ。

あれ、なんだったのよ。

アドリブ……って、言ってたけど。

それ、演技として成立してなかったからね!?


(……思い出しただけで耳が熱い)


 


そんなこんなで、目覚めから30分後。

神代マネージャーから事務所Discordに通話招待が来た。


「……何これ、公開処刑か会議かどっち……?」


震える手で入ったら、すぐに神代さんの声が飛んできた。


「おつかれさま、夜々ちゃん。あれ、バズってるね!」


「だから!あれは事故であって、故意じゃなくて、ええと、あのっ——!」


「最高だったわ!!!!!」


「え?」


「コメント回転率、過去最高。再生数も3時間で10万越え。トレンド2位。

あと社長から“夜々センターで次のASMRコラボやろう”って指令来てる」


「……は?」


「いや〜、“ガチ恋囁き姫”ってタグまで作られてるし、これ使わない手はないよね〜!」


テンション高めの神代さんと、笑いをこらえるスタッフ。

そして、ひとり、声を出さないまま待機してる“レイ”。


(いたのか……いや、いるよね、そりゃ)


ふと、マイクから控えめな低音が聞こえてくる。


「……あの、夜々さん」


「……なによ」


「昨日の、囁き。……演技っぽく、なかった、です」


「……は!?」


言ったな、このイケボ。


しかも真顔っぽいトーンで、言いやがったな。


「ち、ちがうし!?あれは演技!完全にプロとして!役に入り込んで!本気じゃないっていうか!!」


「……でも、“好き”って、3回も言ってたじゃないですか」


「ばっ!そ、それは、演出!演出過多なの!!感情移入のしすぎよ!プロならやるでしょ!?普通!?」


「……そっか。じゃあ、僕もプロとして、返したんですよね」


「っ……」


返した、って……

あの「僕も、すきですよ」ってやつ……それ、演技だったって、そういうこと?


(なにそれ、逆にグサッとくるんだけど!?)


「あのねぇ……っ、あんた、ほんとにずるいんだから……」


ボソッと漏れた声は、たぶんマイクに拾われてた。


「え?」


「なんでもない!カット!いまのカットよ!!」


(ていうか会議録画しないでよ、お願いだから……!)


 


しばらくして、会議終了。

通話を切る前に、ふいに《レイ》の声がまたした。


「……あの、夜々さん」


「……何よ、まだ言い足りないの?」


「次のコラボ、“恋人ASMR”、ですよね」


「そ、そうだけど……」


「……僕、また夜々さんとペアがいいです」


「っ!」


一瞬、心臓が止まる音がした気がした。


「え、あ、いや、それって……その、えっと……っ」


「今回の、リベンジ。ちゃんと、演技でやります。だから……安心して、甘えてください」


その言い方。

“演技でやる”って言ったのに、“甘えていい”ってなんなの。


(いやもう、これは完全に——)


やっぱりこの人、本音と演技の境界線がバグってる。

それに付き合わされるこっちの身にもなってよ……。


でも。


でもね。


「……いいわよ」


「あっ、ありがとうございます!」


「でも、次も事故ったら……あんた、責任取りなさいよね?」


「え?」


「“役”としてじゃない、“本人”として。……わかってる?」


「……っ……はい」


ちょっと間をおいてからの、その返事。

マイク越しでも、少し震えてた気がした。


 


ああもう、どうしよう。


次も事故ったら、本気で“告白”になっちゃうかもしれないのに——

……その未来が、怖くない自分がいるのが、もっと怖い。

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