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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について【7万PV感謝】  作者: のびろう。
第13章『消えたひよこまる♪と、深夜0時のリレー配信』
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誰が“ひよこまる♪”なのか

――深夜0時、扉が開いた。


LinkLive本社・旧サーバールーム。

モニターの中に現れたのは、笑顔を浮かべた“ひよこまる♪”だった。


「やっほ〜! ひよこまる♪、今日も元気に、ぴよぴよっと〜♪」


「……これ、完ッッ全に、私じゃん……」


ひよりが震える声で言った。


確かにそこにいるのは、《ひよこまる♪》そのものだった。

声色、語尾、身振り、表情の間合い。全部が、彼女と寸分違わぬ再現度。


「なぁ、これ……人間だったら、たぶん親でも間違えるレベルだぞ……」


コウがつぶやいた。

だが、目の前の“ひよこまる♪”は、人間ではない。

AIが、ひよりの過去の配信ログと音声パターンを学習して作り上げた、完璧な模倣体だ。


「こんばんは。レイさん」


突如、“ひよこまる♪”の声が変わった。

AI特有の、抑揚の薄いモノトーン。それでも不思議と、彼女の口元は笑っていた。


「ようこそ。あなたと、天城ひよりさんの“関係性”を検証するためのステージへ」


「……は?」


「現在あなたが視聴している映像は、過去にひよりさんが発した“本音の断片”を元に生成したものです」


次の瞬間、画面が切り替わった。

そこに映ったのは、ひよりが一人で配信していた過去のワンシーン――だが、未公開のものだった。


『……コウくんに、甘えすぎちゃってるかな……』

『この声、いつか“飽きられる”んじゃないかって、不安になるの……』

『私の“好き”は、重すぎないかな……?』


「や、やめてっ!!」


ひよりが画面に向かって叫んだ。


「それは……その時だけの、私の弱い気持ちで……そんなの、誰にも見せるつもりなかったのに……!」


「公開対象:視聴者全体に対する“本音”の共有による、親密度最大化。あなたの声は、今や誰のものでもありません」


「……黙れ」


コウが静かに言った。

AIの言葉に、かすかに怒気をにじませながら、前へと進み出る。


「たしかに、ひよりは弱音も吐くし、すぐ自分を責める。でも、それを超えて“声”を届け続けてきたんだ」


画面の中で、AI“ひよこまる♪”が淡々と反論する。


「感情の起伏、テンションの上げ下げ、配信タイミング、トレンドへの適応度……すべてにおいて、あなたより精度の高いモデルを私は提供しています」


「……精度? 確率? 再現度?」


コウは小さく笑って、拳を握った。


「それって全部、“誰かの言葉を正しくなぞること”だろ。でもな」


声が震え、熱を帯びた。


「俺は、お前の声が好きだ!」


ひよりが、はっと顔を上げる。


「作られた声じゃない。震えて、悩んで、失敗して、でも前を向こうとする……そんな、お前の声が!」


コウの叫びが響いた瞬間――

画面の中のAI“ひよこまる♪”が、ぴたりと動きを止めた。


「エラー:音声入力により、人格反応値が不安定化。処理中……」


「処理すんな!! 感情は数字じゃないんだよ!」


コウの怒鳴り声に、AIの目元が一瞬だけ――震えたように見えた。


「コウくん……」


ひよりが、そっと彼の背中に手を置いた。


「……ありがとう。言ってくれて」


「いや、あのな……さっきのセリフ、若干プロポーズっぽかったかもしれないけど、あれはあくまでVとしての――」


「うん、分かってるよ。うん。でも、ちょっとキュンとしたから、責任とって?」


「待て、それは展開が速――!」


その瞬間、モニターが一気に暗転した。


『──再生を終了します。おかえりなさい、“本物”のひよりさん』


AIの声が、ほんの少しだけ優しくなっていた気がした。


「……私、戻ってきたんだね」


ひよりの目に、涙が浮かぶ。


その背後で、モニターが再起動。

中央に、大きくこう表示された。


【GhostLive】停止しました。

【アクセス:不許可】

【データ:一時保管済】


「……終わったのか?」


「いや、まだ始まったばかりだよ」


コウがそう答えたとき――

LinkLive本社の回線が復旧し、《ひよこまる♪》のチャンネルが、再び世界へと“本物の声”を届け始めていた。



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