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イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について【7万PV感謝】  作者: のびろう。
第13章『消えたひよこまる♪と、深夜0時のリレー配信』
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プロローグ『消された声』

「えっ……えっ……ええええええええ!?!?」


LinkLive本社の共有ラウンジに、ひよりの絶叫が響いた。

朝の光が差し込むのどかな室内。その中央で、椅子に座ったまま白目を剥いて固まるひよりの背後では、慌てて駆けつけたマネージャー・神代カオルが、スマホを片手に青ざめていた。


「ど、どういうこと……なんで、私の配信アーカイブが全部、消えて……?」


ひよりの声が震えている。

ノートPCの画面には、彼女の配信チャンネル《ひよこまる♪》が映っていた。チャンネル自体は表示されているのに、動画一覧は空白。そして、SNSアカウントも凍結、フォロワー数もゼロに――。


「しっ、信じられない……昨日まで何もなかったのに!」


「完全に、外部から操作された痕跡があるな……」


カオルはPC画面に表示された管理者用ログをスクロールしながら、眉間に深い皺を刻んだ。

セキュリティに関してはLinkLiveの中でも上位クラスのはずだった。《ひよこまる♪》は所属Vの中でも特に若年層に人気があり、企業案件も多い。下手な不祥事は許されない立場だった。


「じゃあ、誰かが……私のチャンネルを、乗っ取ったってこと……?」


「いや、アカウント情報は変更されてない。運営者情報も、セキュリティもそのままだ。だが――」


カオルがクリックした画面には、ひとつだけ奇妙なメッセージが表示されていた。


『本物の“声”は誰か?』


「……なんなの、これ。ホラー映画の導入みたいなんだけど……っ!」


ひよりが額に手を当ててガクガク震え始めたので、カオルがすかさずブランケットを肩に掛ける。


「コウくんには、連絡してある。もうすぐ来るはずだ」


その瞬間、ラウンジのドアが開いた。


「ひより!」


息を切らしながら飛び込んできたのは、主人公――天城コウ。

部屋に入るや否や、ひよりのもとに駆け寄ると、その小柄な体をそっと抱きしめた。


「無事か!?何かされたりしてないか?」


「う、うん……私は大丈夫。でも、私の“ひよこまる”が……全部、消えちゃって……」


その肩が震えているのを感じながら、コウは静かに彼女の背を撫でた。

そして顔を上げ、モニターのメッセージを見た瞬間、その目が鋭く細められる。


「――これは、狙い撃ちだな。ひよこまる♪という“存在”そのものを消しに来てる」


「まるで……ひよりじゃない誰かが、“ひよりの代わり”にひよこまるになろうとしてる、みたいな……?」


「……ありえるな」


コウは腕を組み、ぐるりと部屋を見渡した。


「俺がひよこまる♪の“中の人”やってたときのデータも、全部残ってたよな? それも消えてるか?」


「残ってない。……おそらく、全部、消された」


「それ、俺の黒歴史も消えてるってことだよな?」


「そこ?」


「いや、まあちょっとホッとしたっていうか……や、違う違う! 今はそれどころじゃないな!」


一瞬だけ安心しそうになった自分を全力で振り払いながら、コウは真剣な目でモニターを睨む。


「“本物の声は誰か”……これは挑発だ。やる気満々のやつが、俺たちを試してる」


「試すって、何を……?」


「わかんねぇけど……ひよりの声を“偽物”だって言ってるやつがいるってことだ」


ひよりが、小さく震える唇を噛んだ。


「……私、そんなに下手だったかな。私の声じゃ、もう“ひよこまる♪”をやっちゃいけないってこと?」


「違うだろ」


コウが即答する。


「誰かの都合のいい“声”になんて、お前はならなくていい。お前が話して、お前が笑って、お前が泣いて……その全部が《ひよこまる♪》だ」


その言葉に、ひよりの目にわずかに涙が浮かんだ。


「……うん、ありがとう」


「ってことで、マネージャー、今から俺も動く。手がかりになりそうなものは?」


「実は……妙なログが一件だけ残っててな」


カオルが端末に接続したセキュリティログを表示すると、そこには不審なサーバーアクセスが記録されていた。


「深夜0時にだけ開く、非公開サーバー。“ghostlive.zero”って名前でな。どうやらそこに何かあるらしい」


「ゴーストライブ……?」


「しかも、毎日違うVの“代役AI”が、過去の配信を模倣して配信をしてるらしい。しかも全部、自動生成のボイスだ。視聴者にはバレてない」


「それ、完全に乗っ取りじゃねぇか……!」


「そういうことだ。そいつらは、“声”をパクって、まるで本人のように振る舞ってる。“本物の声”っていうのは……つまり、あいつらにとっては“誰の声でもいい”ってことだ」


コウは拳を握った。

“声”とは“存在”だ。誰かを救い、誰かの心に届く、確かな“想い”だ。


それを、勝手に“模倣”されるなんて、許せなかった。


「行くぞ、ひより。俺たちの“声”を、取り戻す」


「うん!」


二人の目が、同時に輝きを取り戻す。

“誰かの声”じゃない。“君の声”じゃなきゃ、意味がない。


《深夜0時、幽霊のように流れる“偽りの配信”》

その真相に、今、ふたりが挑む――。



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