最期の灼熱
【1】写真の山
目覚めると、部屋の中は薄暗く、燃え残った写真が積み上がっていた。
黒焦げの縁取りが、まるで血のように僕の目に映る。
「俺のこと、もう焼かなくていいよ」
壁に走る墨の文字は震えて、でも確かにそこにあった。
宗像さんが僕を焼き尽くすことをやめてくれるなら──と思うと、僕は少しだけ安心した。
でも本当に、あいつが喜ぶのは、僕の肉体が灰になることかもしれない。
それなら僕は、自らを燃やして、あいつの手で拾ってもらおうと思った。
⸻
【2】灯る軋み
キッチンからマッチを持ってきて、写真の山に近づく。
破れたプリント、血の染み、笑顔の欠片──
どれも僕の一部だった。
小さな火種をそっと辺縁にくべる。
パチリ、と小さく弾ける音。
僕は懐かしい匂いに胸が痛んだ。
「燃えろ、燃えろ……」
壊れかけた声で、繰り返す。
写真がゆっくり黒煙を上げ、炎が指先を舐めていく。
皮膚に直接触れることはないけれど、その熱さが胸に迫る。
⸻
【3】解き放つ決意
炎の光が部屋を揺らめかせ、僕はテーブルに置いた小瓶を手に取った。
中身は、睡眠導入剤と安定剤──
――自分を終わらせるために、あの夜、無意識に買っておいたもの。
「これで、灰と一緒に僕も消える」
僕は錠剤を一粒ずつ粉々に砕き、咽喉に流し込む。
苦さと甘さが同時に広がり、世界が揺れ始める。
でもまだ痛みは遠い。
むしろ、燃え続ける写真の熱と、薬の熱が重なって、全身が高熱に包まれていく。
⸻
【4】最後の視線
嗚咽にも似た静かな音を漏らしながら、僕は床に崩れ込む。
焦げる匂いと薬のまどろみの間で、頭の中に一筋の声音が蘇った。
「……お前は、もう見えない」
宗像さんの声だった。
あの日、雨上がりの窓辺で言われた、その言葉。
僕は目線を写真の炎に戻す。
燃え尽きるまで眺めて、最後に笑顔の欠片を探す。
そこにあったのは、痛みと、少しの慈悲。
宗像さんは、僕の最期の姿を、この目で見たかったんだ。
⸻
【5】灰になる前に
意識が途切れ途切れになりながら、僕は手を伸ばし、燃えさかる熱に触れた。
一瞬、全身に電気が走るような衝撃。
そして、あたたかさと痛みが一体となって僕を包み込む。
「ありがとう……ずっと、見てくれて」
それが、僕の最後の言葉だった。
次に開いたとき、世界は真っ白だった。
写真も、炎も、痛みも、すべてが消えて――
僕はただ、骨だけになって、宗像さんの手の中にいた。
⸻
―終―




