表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

1.第一歩



 晴れ渡る青い空。心地よい風がさわさわと草を撫でつける。広い広い草原を走って行くたくさんの荷を積んだ馬車の列。それらへ向けて私は大きく手を振った。



 あの地獄の夜から7年。あの時、帰る場所を無くした私を見つけてくれたのは偶然通りかかった『リード団』という商団だった。旅をしながら品物や知識、労働力を売り歩く。そんな生活を送っていた彼らは身寄りのない私を快く迎え入れてくれた。

 それから7年間、私は商団の皆と過ごしてきた。団のリーダーは私を商団のメンバーとして扱い、色んなことを経験させてくれた。団のメンバーの皆は何も知らない私に生きていくうえで大事なことをたくさん教えてくれた。私と同じ年の息子を持つ夫婦は家族のように接してくれた。



 ――そして、そんな日々も今日で終わりだ。



 だんだんと遠くなっていく姿に寂しさが溢れてくる。自分で決めたことだけれど、やっぱり寂しいものは寂しい。でも、もう戻ることは出来ない。

 完全に見えなくなってしまった所でずっと上げていた腕を下ろし、反対方向へと歩き出した。


 その進路の先にあるのはこの国一番の都市、王都。遠くに見える高くそびえ立つ塀の向こうに目的地はある。



 王都の中心にある王城、そこに居るであろう第二王子ギルバート・ブレイツ。

 ――あの惨劇を起こした人物。私が、復讐を誓った相手だ。






 商団に拾われてすぐ、赤い目を持つ男のことを尋ねた。駄目元だったが、予想に反してすぐに男の正体は判明した。

 ――第二王子ギルバート・ブレイツ。この世界に一人しか存在しない、赤い目を持つ人物。

 青色、緑色、黄色、紫色。皆瞳の色は様々だが、赤い目は大変貴重らしく、数十年に一度、王族の血をひく者にしか赤い目を持つ者は生まれない。そして、今代生まれたのが件のギルバート・ブレイツだった。


 さて、正体がすぐに分かったのは良いことだが、相手が王族となると近づくことすら困難だ。どうやったら近づくことが出来るか。それがこの復讐を成し遂げるうえでの1つ目の課題だった。


 まず、考えたのは身分を偽って忍び込む方法だ。しかし、この作戦はリスクが高い。間の悪いことに今代の王室は大変複雑な事情があるらしく、普段から暗殺やら誘拐やらが横行しているようなのだ。そのせいで警備は厳重。使用人ですら、身元のしっかりしている者でないといけないらしい。その点、私はただの村娘として生まれ、その後は放浪する生活を送ってきた。採用される可能性は低い。

 次に、『リード団』の名を利用する方法。この作戦は思いついてすぐ却下だった。正直言ってこの作戦は身分を偽るより可能性は高い。でも、私の復讐に皆を巻き込むつもりはなかった。

 他にも色々と考えてみたものの、どれも期待出来ないものばかり。そして、ようやく見つけた最後の方法は――


 一つに纏めていた長い髪を結び目からばっさりと断つ。長い間共に過ごしてきた髪ともこれでお別れだ。毛先を整え、胸にさらしを巻いた。とある宿の一室にある、一面の鏡。そこに写るのは中性的な人物。


「今日から僕は、アラン・ベールドだ」


 そう。見出した最後の作戦とは、


 ――男装して、王国軍に潜入することだった。





 本来、王国軍に入るのにもそこそこの身分と身元の証明が必要となる。が、それも例外となる時期が数十年に一度だけあった。――瘴気が増す時期だ。


 ―――瘴気。南に位置する『瘴気の森』から流れてくるそれは、生きるもの全てに害をなす。

 植物は汚染されると自らも瘴気を放出し始め、動物たちは例えどんなに温厚な性格だったとしても瘴気に侵されると凶暴化し、人も動物も見境なく襲い始める。人間は多少の耐性があるものの、強まりすぎると発狂して死に至る。


 そんな恐ろしいものが増すとなると秩序は途端にバランスを崩してしまう。治安を維持し、人々を守るために必要となってくるのが多くの兵力。その兵力が招集されるのがちょうど今なのだ。

 身分関係なく、ただ戦う意思のある者を受け入れる。そんな簡単に入隊出来る機会、今しかない。さらに、成果を出す者は身分関係なくきちんと評価されると聞く。多くの手柄を挙げ、役職が上になれば、重要な任務も任されることとなる。その中には王族関連のものもあるだろう。そうなれば目標へ近づくチャンスは一気に増える。


 そして、あまり期待はしていないが、ひとつ、気になる噂もあった。


 ――第二王子が直接指揮を執る部隊がある。


 出所の分からない、ただの風の噂だ。だけど、もし本当だとすれば?大きなチャンスとなるに違いない。

 というわけで、私は男装して王国軍に潜入することに決めたのだ。『リード団』にいた数年間で武力は鍛えられている。そう簡単に命を落とさない自信はあった。一番の懸念は男装であることがバレないかどうかだが……。

 鏡に写る自分の姿を観察する。…………まあ、男に見えないこともないだろう。幸いなことに生まれた時からハスキーな声であるし、きっと、多分、大丈夫なはず……。

 窓の外、遠くに見える王城を見上げる。あそこに私が長年追い求めた復讐相手がいるのだ。


「ギルバート・ブレイツ。お前を、絶対に……!」



 胸中の嵐はまだ止まない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ