うわさを聞いた夏の日
夏休みの終わる直前、部活の都合で登校し、教室でくつろいでいた大志は友人に話しかけられた。
「なあ大志。あの噂…聞いたかい?」
「あの噂…ってなんだい?」
「噂」とやらをわざわざ言いに来た彼はトラジ。ラノベ友達で高校生活の3年間、なんやかんや交流が続いている。
「夏の夜10時頃、この場所の神社に好きな子と一緒に行くと一生結ばれるらしいんだよ。試してみない?」
僕はそれに呆れ顔をする。
「試してみない?って…君がただビビりだから一緒に来て欲しいってことだろ?ダブルデートみたいな感じでさ。」
「うぐっ…」
図星だったようでトラジは分かりやすい反応を返す。
「ダブルデート」という言い方をしたのは僕にも彼にも想い人がそれぞれいるからだ。
チラリ、とトラジから視点をそらし教室を見る。そこには2人の女子が仲良さそうに話していた。1人はエレナといい、僕が想いを寄せる娘だ。もう1人はスカイ、トラジが想いを寄せる娘である。
僕ら4人は仲がかなり良く、4人一緒に出かけたり、僕とエレナ、トラジとスカイでほぼデートのように2人っきりで外出したり…
それでも誰も付き合っていないのは僕もトラジもヘタレだからである。だからそのキッカケに彼は噂でもなんでも利用しようというのだろう。
「まあ…行ってもいいけど…」
「ほ、本当に!?」
何か動きが欲しいと思っていたのは僕も同じだ。それに高校を卒業してしまえば疎遠になる可能性もある。
「エレナ、スカイさん、ちょっといい?」
先程の話を2人にも伝える。
「面白そうですけど…夏の夜10時にこの神社に行く…ですかー」
「私も面白そうだと思う…でもこんな場所に神社なんてあったっけ…?」
エレナの言葉に「確かに…」と頷く。結構近所だというのにこんな神社…見たことあっただろうか?
「それに暗くて道が分からなくなったら大変そうですね〜トラジはそんなに私と結ばれたいんですかー?」
イタズラっぽくスカイは言う。
「ああ、君となら一生でも足りないぐらいだよ。」
トラジの暴力的なまでのカウンターによってスカイは真っ赤になって俯き黙り込む。
「大志…私と結ばれたいの?」
「うん。君と一緒にずっと幸せな生活を送りたいと思ってるよ。」
「ふふ…嬉しい。」
この後実際に行ってみることが決まった。
「ここがその神社か…?」
4人で集合した僕たちはその神社があるという道を見つけた。
「…ここ、普段通ってる道なのに…ずっと見つけられなかったなんて事…あるかな?」
エレナの言う通りここは今までの学校生活で4人全員が登校ルートとして使っている。なのに誰も見覚えが無い。
「まあ管理人さんが実はサボってていつもは見つけられなかっただけじゃないですかー?」
「それに普段は自転車だしね。草の伸び具合とかで見えなかっただけかもしれない。じゃあ…入ってみようか。」
スカイとトラジはそれっぽい理由を考えて入っていく。僕らもそれに続く。
敷地に入ってみると石畳の道があり、鳥居もある。至って普通の神社という印象だ。不思議な点としては…
「いまどき…電灯じゃなく灯篭で照らす所なんてあるんだね…?」
彼女の言う通り石畳の脇にある灯篭に火が灯るのみで電気が付いている場所がどこにもない。
石畳の上を進み、鳥居を潜ると本殿が見える。鐘は2つしかないので2人ずつしかお賽銭は出来なさそうだ。
「じゃあまずは僕と大志でお賽銭してくるよ。」
トラジと僕は階段を上りそれぞれ鐘を鳴らす。
「……?」
何か空気が変わったような違和感を感じるがとりあえずお賽銭をして、2礼、2拍手、1礼をする。
(エレナとずっと一緒に居れますように)
そっとお願いを思い浮かべる。
「それじゃあ次はスカイとエレ…──!?」
後ろを振り向くと僕らは驚愕に襲われる。
2人があっという間にいなくなっていた。それだけではない、灯篭の火が全て消えて灯りが無くなっている。
とりあえず電話を掛けようと取り出したスマホを見て再び驚く。圏外になっていた。
「ねえ、大志。僕らのスマホってこんなに充電切れ間近だったっけ?」
充電を見ると残り3%…これではライトとして使うにも心許ない。
トラジは念の為持って来ていた懐中電灯を取り出し、辺りを見回す。
そこで気づく。さっきまで閉まっていた本殿の扉が開いている。
そこには照らしても真っ暗な影のようなモノがいて。そしてその口元に運んで食べているのは…人間の…足…
「うっ!うぇ…」
吐きそうになり口元を抑える。落ち着いてからもう一度視点を上げると…
化け物がこちらを赤い目で見つめていて…持っていた足を捨ててこちらへドタドタと走り出してきた。
「大志!僕がアイツを引きつけるから急いでエレナを見つけて逃げろ!」
そういって懐中電灯を渡され、僕は走り出す。別れ道を右に進みしばらく走り続けた。
「はあ…はあ…」
しばらく走り続け、息が切れる。トラジも化け物も、エレナも見当たらない。
「…あれ?」
別れ道で右に進み続けたのにいつの間にか本殿のある場所に戻ってきていた。
「…大志?」
「うわあっ!?」
後ろから声をかけられ飛び上がり懐中電灯を向けるとそこにはエレナがいた。
「大志?どうしたの…そんなに怯えて…それに眩しいよ…」
「あ…ごめん。」
エレナに会えたことに安堵して少し落ち着く。
「ば…化け物には会ってない?」
そう聞くとエレナは怪訝な顔をする。
「化け物…?そんなの会ってないよ?それより…お賽銭した後…一体何処に行ってたの?一瞬で姿を消して…」
エレナにさっきまでに僕が体験した物を全て話した。
「…とりあえず出よう?その話が本当ならここには長居しない方が良いよ…」
そうして出口に向かおうとすると…またドタドタとあの音がしてきた。
「な…なにあれ?黒くて…毛むくじゃらで…四つん這い?」
「あれがその化け物!早く逃げよう!」
鳥居を抜けて石畳の道を走っていくが…
「出口が…無い!?」
入る時と同じ道を通ってきたはずだ。しかしそこには行き止まりしか無く化け物に追いつかれる。
ジリジリと近寄ってくる化け物。
僕は覚悟を決めてエレナと化け物の間に手を広げて立つ。
化け物の目をしっかり見つめる。
「本当にすみません、こんな時間に立ち入ってしまって…」
化け物はこちらに一歩近づいてくる。
「そして勝手なお願いなのは分かっています…しかしどうか、どうかお願いです。僕をどうしても構いません。なので彼女だけは見逃してくださいませんか?僕が巻き込んでしまっただけなんです。僕にとって彼女がもっとも大切な人なんです。」
足が震える、心臓が異常なほど早く動く。それでも言い切った。
「た…大志…ダメだよ…そんなの…大志だけでも…」
後ろから声が聞こえる。それでも僕は動かずに化け物を見続ける。
化け物はこちらを見つめ…粉のようになって消え去った。そしてそこには紙が残される。
僕らは呆気に取られてしばらくそのままの体勢だったが…紙を拾い上げ、2人で見つめる。
「私はかつて恋人に裏切られた。その恋人を殺してから私は化け物として祀られるようになった。それから私は恋人達を試すようになった。いざという時に裏切るような恋人は真の恋人ではない。でも君達はきっと大丈夫。追いかけるような真似をして本当に悪かった。」
ただ、そう書かれていた。
「…怖い見た目だったけど…普通に話が通じる人だったんだね…」
僕はそっと頷き、いつの間にか現れた出口から外に出た。
「大志!無事で良かった…」
外に出るとトラジとスカイさんが待っていた。
「ああ、トラジも無事で良かった…って言いたい所だけど…一体誰からあんな噂聞いたんたんだよ!酷い目にあったぞ!」
「ご、ごめん…帰ってる時に知らない人に話しかけられて…それであの噂を聞いて…」
「そんなの鵜呑みにして僕らを巻き込んだのかい!?」
「本当にごめんよぉ…」
「まあでも…トラジが必死に私を守ろうとしてくれたのは嬉しかったな〜」
「ん、私もタイシが庇ってくれた時…悲しいけど嬉しかったよ…」
とりあえず僕らは家に帰ることにした。
その数日後。僕とエレナ、トラジとスカイはそれぞれほぼプロポーズのようなことをして名実共に恋人になった。
…まあ、噂は嘘じゃなかったのだろうか…?
夏休みも終わり登校日が来る。
「タイシ!おはよー!」
エレナと談笑していた所にトラジとスカイが登校してくる。
「ああ…おはようトラジ、スカイさん。」
「ねえタイシ。あの噂…なんだか別ルートで広まってるらしいよ。」
「そ、そうなの?」
話を聞こうとするがチャイムが鳴り先生が話し始めるので後で聞こうと思い先生の方を向く。
「あれ?珍しく欠席か?」
出欠を先生が取っているとある男子がいない。確か女遊びの激しい生徒だったはずだ。
「なあ知ってる?あいつ、あの神社行ったらしいぜ?」
「マジー?そういやあいつの家泊まり行くって言ってた奴も今日休みじゃね?」
クラスメイトの話す噂が聞こえる。
「私は恋人達を試すようになった。」
紙に書かれた一文を思い出す。
もし実際に神社に彼が行ったら…恐らく不合格だろう。女遊びを言いふらし謹慎になったこともある。
不合格ならどうなるのだろう…ふと考えてしまう。
そういえばあの化け物は本殿の中で人の足を食べていた…もしかして…
そこで考えをせき止める。もう行く予定もないのだから考える必要はない。
「俺たちもさー結んでもらおうぜ?」
「えー?一応行っとくー?」
どうかこの噂が早く収まってくれますように。僕はただそう思う。
今回気分転換がてら「夏のホラー2024、うわさ」というテーマで書かせてもらいました。普段とキャラの名前が同じなのは…まあ性格とかを考えてるから新しいキャラを作るよりも楽なんですよね…
ただ…あまりホラーを書ける人間じゃ無いってことを今回自覚出来ました…
これからは大人しく代表作の方を極めていこうと思います。