三人の人殺し
二人の死神が鏡越しに目を合わせた。その瞬間をもし第三者が目撃していれば、蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも動かなくなった制服姿の少女と、いつもの底しれない笑みの向こうで珍しく冷や汗をかいているスーツ姿の女を目にしたことだろう。実際には通勤ラッシュにも関わらず女子トイレは何故か人の出入りがなかったためそのようなことは起きないのだが。
女は徐に懐からハンカチを取り出し、ひたいの汗を拭いながらその場にしゃがみ込んだ。
「いやー…末恐ろしいねぇ」
そしてしゃがんだ体制のままジリジリと前進し、少女の腰を弄ったかと思えばスカートのポケットからスマートフォンを勝手に取り出す。そのままなぜかスムーズに暗証番号を入れてロックを解除し、各種SNSを確認していく。
「LINEよし。インスタよし。Twitterは…げっ。知らんアカウントがあるな」
おっかなびっくり画面をスワイプしながら「どれどれ」「これ鍵垢ってやつかな」「なんか正真正銘呟きって感じ」「うわーやっぱ病んでますねぇ〜」などと呟いている。側から見れば変質者だ。
「別に側から見なくても変質者ですね」
「うわびっくりした!…女子トイレに思っきし入ってきといてそれ言う?」
顔色ひとつ変えずに女の園に入ってきたのは人ひとり丸ごと入りそうなサイズのトランクを転がす制服姿の青年だ。年の頃は16〜18といったところか。童顔ではあるが体格や纏う雰囲気はもう子供とは言い難く、目撃者がいれば通報されかねない絵面だが、相変わらずトイレには人が来ない。
「余計なことしゃべらないでください。これ以上は流石に不自然ですし、徐々に人の動きを戻したほうがいいです。急ぎますよ」
青年は言いながらトランクを開け、慣れた手つきで少女を収納していく。
「…こなれてきたね」
「やめてください。もう拉致はごめんですよ。最近はあなたの眼に頼り過ぎなのも気に入らない」
「良いじゃん別に。減るもんじゃないんだし」
「本当にそうですかね。この子のコンディションに依っては赤羽根さん喰われてたんじゃないですか?」
その時女…赤羽根は一瞬ピクリと動きを止めた。青年は呆れ顔でトランクを閉じる
「無茶しないでください。貴方の代わりは居ないんですから」
「石永くん…」
「って言ってもやるんでしょうけどね」
「代わりかぁ。代わりねぇ」
少々語気を強めながら青年は立ち上がり、携帯を取り出す。着信音を鳴らしていたためその時赤羽根が漏らした短い呟きが彼に届くことはなかったが、薄々彼も勘づいていた。
このトランクの中の少女がいずれ次の抑止力になることを赤羽根は既に期待している。
ちなみにこの会話は組織の誰もが予想できない速さで意識を取り戻し怯えていた少女に一言一句聞かれてしまっていた。




