表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

一歩2


言われるがままにうがいをして、言われるがままに胃薬を飲み、言われるがままに歯を磨く…のを後ろからじっと見られている。


 落ち着かないのはもちろんなのだが、この状況、ここまで世話を焼かれると、()()()()()()()ようにするのにものすごく神経を使う。せめてこの沈黙が少しでも長く続いてくれればと願った瞬間、視界の端で鏡に映る女性の口が開いた。


「ねえ、何で鏡見ないの?」

「…」

「てゆーか、私と眼を合わせたくないのかな?」

「いえ、そんなことは」


 かなりまずい。


「わ、私…人の目とか見るの苦手で」

「あーわかるよ。模様とか色味とか、まじまじと見てみると少し怖いよね」

「…はい」

「ヤギの目とか猫の目とか怖い目はたくさんあるけど、君もいちばん苦手なのは人間の目かな?」

「え?あ、はい」

「それは眼が合うと死んじゃうから?」

「はい?………っ!」


がんっ!


「ごめんね。ちょっと急だったかな」


 反射的に顔を上げそうになったのをこらえようとして、蛇口に顔が激突した。額がジンジンと痛む。


「待っててね。すぐに薬局に…」

「あの、今のって」

「二年前」

「…」


 それを


「二年前にさ、2日連続で同じ時間帯に、同じ場所で飛び込みがあったんだよね。この駅が都市伝説にならなかったのは、単に三日目にある女の子(その原因)が使う駅を一つスライドさせたからってだけだった。結局三日目はその駅で人身事故が起きたわけだけどね」


 それを知っているのは


「飛び込んだのはいずれも残業続きの会社員だったし、それきり女の子は中3のこの時期になるまでずっと引きこもってるもんだから、ちゃんと気付けたのは多分私たちだけだった。」


 それを知っているのは元凶(わたし)だけだと思っていた。


「飛び込みの現場の向かい側のホームに、必ず君が立っていたことにね」


 私は額の痛みも、ほんの寸刻前に感じたばかりの罪悪感も、二年前に自分に定めたルールも忘れて、顔を上げてしまう。


 

「さあ、勝負して?私の眼が勝ったら…」


 君には死んでもらうよ、とその女性は微笑みながら言った。その眼は今まで目にしたどんな生き物よりも怖く、美しかった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ