告白
友人の過去世を物語として書き起こしてみました。処女作なので拙いところも多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。シエラが体験した世界、そしてその思いを皆様にも届けられたらと思っています。
石造りの壁に囲まれた暗くて冷たい部屋の中。明かり取りの小さな窓が天井付近にあるものの、今夜は月も見えず、真っ暗闇に近い部屋の隅にリリーはうずくまっている。
ここは異端審問所内の牢だ。
他に囚われている人はいないようで、音もなく、ただ静かに時が流れている。
リリーはシエラとレオはどうしているだろうかと思いを馳せていた。
遠くからかすかに足音のようなものが聞こえてくる。
いや、これは間違いなく足音だ。
だんだん近づいてくる。
処刑は明日ではなかったか?まさか処刑時間が早まったのだろうか。
リリーは近づいてくる足音に耳を澄ましながら、ごくりと唾を飲み込む。
怖くないと言ったら嘘になる。
いつか必ず訪れる「死」であると理解はしていても、リリーにはまだやりたいこともあった。
シエラとレオと、これから先も笑顔で日々を過ごしていけると思っていた。
そして何よりレオの成長を楽しみにしていた。
足音がドアの前で止まった。
「リリーさん・・・起きていますか?」
小声で男が話しかけてくる。
リリーはドアの付近まで近づき
「誰?」
と尋ねた。
「ジャン・・と、申します。」
男はそう名乗った後、続けて話し出した。
「実は、シエラさんを魔女ではないかと告発したのは私なのです。」
「なんですって!?」
リリーは思わず大きな声を上げた。
「しーっ!静かに!見つかったら大変なことになります!!」
リリーは大きく深呼吸して
「その、魔女を告発した勇敢なジャンさまが無様な魔女にどんな御用で?」
と、皮肉たっぷりに問いかける。
「す・・・すみません。私の息子が馬車に轢かれたとき、息子を助けてくれたのがシエラさんでした。シエラさんから渡された薬のおかげで息子は元気を取り戻した。でも・・・その薬が・・・妻の父親に見つかってしまったのです。あ、妻の父親も異端審問官で、私の上官でもあるのです。その父親から薬のことを聞かれ・・・私は・・・・シエラさんのことを・・・話してしまったのです。」
「・・・・・・」
「でも!!今日の魔女裁判を見て、私は心を決めました。魔女裁判なんて狂ってる。こんなことは今すぐやめるべきだ!あなたを助けたい。助けたいんです。」
ジャンは真剣な表情で必死に訴えてくる。
「助けるって・・・どうやって?」
「それは・・・」
ジャンはごにょごにょと口ごもる。
「何なのよ。ここまで来て何も考えてないっていうの?ただ助けたいって思いだけを伝えに来たの?」
「い・・いや・・これから一緒に考えようと・・・」
うつむきがちにボソッと呟く。
そんなジャンを見てリリーは
「あんた馬鹿じゃないの?それくらいちゃんと考えてから行動しなさいよ。あたしはこの建物のこと全然知らないのよ?道具だってない。処刑は明日。もう時間もない。それに、万が一ここから脱出できたとして、その手助けをしたのがあんただってことがばれたらどうするの?あんたの大切な子供も奥さんもあたしと同じような目にあうかもしれないじゃない。あんたが言ってる助けたいは、あたしのためなんかじゃない。シエラのことを告げ口してしまった自分への罪滅ぼしのためよね。そんなことに利用されるなんてまっぴらだわ!」
「そ・・・そんなこと・・」
「いい?あたしはここから逃げるなんてことはしない。もう覚悟は決めたの。あたしは明日処刑される。それでいいの。これが自分の運命なんだって、ちゃんとわかってるの。あたしが処刑されることであんたが少しでも悲しんでくれるなら、こんな馬鹿げたことで殺される人はあたしで最後にするくらいの気概を見せて!これ以上理不尽な悲しみに振り回される人を増やさない努力をしてよ!」
「うっ・・・・」
リリーの言葉に言い返すこともできず、ジャンは肩を震わせ泣いている。
「本当に・・・本当に・・すまないことを・・・」
「あーっもういいから。ほら、家族が待ってるんでしょ?さっさと帰りなさいよ」
そう言うとリリーは部屋の奥の方に戻っていった。
ジャンは部屋の中にいるリリーに向かって深くお辞儀をして、足早に去っていった。
遠ざかっていく足音を聞きながらリリーは呟く。
「シエラ・・・あんたは何も悪くないわ。だからどうか、自分を責めないで・・・。たくましく、強く、生きてね・・・あんたに・・・あんたに託したわよ。」
目を閉じたリリーの頬を一筋の涙がつたった。