連行(2)
友人の過去世を物語として書き起こしてみました。処女作なので拙いところも多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。シエラが体験した世界、そしてその思いを皆様にも届けられたらと思っています。
「ママ・・・ママ・・・」
「シエラや・・・シエラ!!」
自分を呼ぶ声が遠くから聞こえた気がしてシエラはハッと我に返った。
どれくらいの時間が経っていたのか、気が付くとレオがシエラの顔を覗き込み、その後ろではフローラがシエラのことを心配そうに見つめている。
「シエラ、大丈夫かい?このありさまは一体・・・一体何があったんだい?」
「・・・・・・・・・・・」
シエラはなかなか声を出せない。
「ママ、大丈夫?ねえ、リリーはどこにいるの?」
「・・・リリー・・・?リリー・・・リリーっ!!」
レオのその一言でシエラはつい今しがた起きた信じられない出来事を思い出し、フローラの足に縋りつくように泣きだした。
フローラはレオに向かって
「ママはちょっと疲れてるみたいだからママのために寝室から暖かいブランケットを持ってきておあげ。それとキッチンに行ってお水も汲んできておくれ。」
と伝えた。
レオは小さくうなずき部屋を後にした。
「さあ、シエラや。一体何があったんだい?ゆっくりで良いから話してごらん。」
シエラは突然男たちがやってきたこと。
その男たちは異端審問会を名乗り、自分を審問会に連行すると言ったこと。
その中に以前助けた子供の父親がいたこと。
そしてリリーが自分の身代わりに連れていかれたことを溢れる涙をこらえ、やっとの思いで説明した。
「異端審問会・・・・・あの時お前が助けた子供の父親が異端審問会のメンバーだったってことなんだね。」
シエラは小刻みに震えながらうなずく。
「おばあちゃん、お水とブランケット持ってきたよ!」
レオが水をこぼさないようにゆっくりとした足取りで近づいてくる。
「おお、ありがとうね。」
「はいママ、ほら、暖かくして、レオが来たからもう大丈夫だよ。」
「レオ・・・・ありがとう。優しい子ね。」
フローラはレオから受け取ったお水をシエラに飲ませた。
「ねえ、リリーはどこにいるの?お部屋見てきたけどどこにもいなかったよ。」
「リリーは用事ができて街に行ってしまったみたいだよ。どこかですれ違ったのかもしれないね・・。今日は帰ってこないみたいだから、今夜はこのフローラ婆さんもここに泊まることにするかね・・・」
「え?おばあちゃんお泊りしてくれるの?やったー!!」
レオは何も疑わず素直に喜んでいる。
シエラはお水を飲み少し落ち着きを取り戻したようで、レオに向かって笑顔を見せている。
「さあレオや、まずはお部屋を片付けるから手伝ってくれないか?ああシエラはまだ良いよ。ゆっくりしていなさい。お前の分もレオが頑張ってくれるから大丈夫だよ。」
「そうだよママ!僕はママの分もお片付けするからママはゆっくり休んでて!」
身体をグイっと伸ばして小さな手で胸をドンっと叩いて見せるレオに、シエラはようやく人心地がついたようで安堵を覚えた。
リリーが連れ去られた事実が消えたわけではないと理解しながら・・・