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シエラの物語  作者: こはす
6/12

連行(1)

友人の過去世を物語として書き起こしてみました。処女作なので拙いところも多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。シエラが体験した世界、そしてその思いを皆様にも届けられたらと思っています。

あの不吉な夜から数日、2人が暮らすアルバの森は平和な日が続いていた。


ある日、シエラは地下室に閉じこもり、新しい薬を作る作業に没頭していた。

シエラは一度集中して作業を始めるとその世界に入り込み、他のものは全く目に入らなくなってしまうところがあるため、そんな時はリリーがレオを薬草摘みに連れ出すのが常となっている。


地上から照らされる太陽の眩い光もこの地下室にはほんのわずかしか届かないため、昼間でもろうそくの明かりがチラチラと揺れている。


部屋の中は大きな釜がぐつぐつと煮える音だけが響き、時折シエラが本をめくりながらぶつぶつと何かをつぶやいている。


 どのくらい時間が過ぎたのか・・・シエラはふうっと一つ大きな息を吐き


「これで完成ね」


と呟きながら目の前でぐつぐつと煮えたぎっている大きな釜の火を消した。



誰かが玄関をドンドンと叩いている音に気づいたのはそんな時だった。


新しい薬が無事完成したことに安堵し、その喜びを味わおうとしていたシエラだったが、楽しみはリリーが戻って来てからにしようと気持ちを切り替え、地下室を出て玄関へと向かう。


「こんな森の奥にお客様なんて・・・珍しいわ・・。」


と不審に思いながらもドンドンと何度も音が鳴っている玄関の前に立つ。


「はーい。どちらさまですか?」


「あ!こちらはアルバの小屋でよろしいでしょうか?シエラさんに会いに来たのですが・・・以前息子を助けていただいた者です。」


そう話す男の声を聞き、シエラは数日前にキリーナの街で助けた少年のことを思い出した。


「あ、あの時の?」


シエラがドアを開くと、目の前に立っていたのは確かにあの時の父親だった。


「はい!シエラさん。あの時は本当にありがとうございました。」


「いえ、とんでもありません。その後息子さんのお怪我はどうですか?」


「シエラさんがくれた薬がすごく効いたみたいで、今はすっかり元気になりました。今日はそのお礼にと思いまして。」


「まあそんな・・お礼のためにこんな森の奥まで・・。でも元気になったのなら良かったです。」


「あの・・・あの薬は・・・もしかしてシエラさんが作ったものだったりするのでしょうか・・・?」


「え?・・・・・あ・・・それは」


その問いに答えようかどうか迷ったその時、目の前に立つ男の後ろからお揃いの服を着た男たちがシエラの前に立ち塞がった。


「こいつがシエラとか言う女か。」


1人の大きな男がシエラをじっと見下ろしている。


この男たちは危険だとシエラが気づいた時にはもう2人の男に両腕を押さえられていた。


「ちょっ!なんなの!?」


「アルバの小屋のシエラ。今からお前を魔女の疑いにより異端審問会へと連行する!」


「なんですって!?」


「この小屋の中も調べさせてもらう。魔女である証が見つかるかもしれないからな。」


両腕を強く掴まれ身動きができないシエラを横目に数人の男たちがバタバタと小屋の中へと入っていく。


シエラは目の前に立っているルイの父親に顔を向けた。


すると父親は


「すみません・・・ルイの命を助けてくれた恩人のあなたを売るような真似をしてしまい。ただ・・・ただ自分は異端審問官である使命を全うしただけなのです。」


と、小声でつぶやいた。


「わ・・・私にはルイを育てる責任があるんだっ」


震え気味に話すその男の言葉を聞きながらシエラの心には愛しい息子レオの笑顔が浮かび、こみ上げてくる涙をこらえるのが精一杯だ。


審問官の男たちがシエラを外に連れ出そうとしたその時、森の奥からリリーが走ってくる姿が見えた。


異端審問官に捕まっている自分をレオには見て欲しくないと思っていたシエラはリリーの周囲を素早く確認したがリリーのそばにレオの姿はなく、レオはどこにいるのかと不安に思ったのと同時に安堵もしていた。


リリーは何かを叫びながらものすごい勢いでアルバの小屋に向かってくる。


審問官たちがリリーに気づいた時にはリリーはもう小屋の目の前に立っていた。


肩で荒く息をしながら審問官たちに向かって


「あんたたち、シエラを離しなさい!いきなり何なの?あんたたちは一体誰なの?シエラが何をしたって言うの?」


と矢継ぎ早に問いかける。


リーダーらしき男が冷静な声で先ほどシエラに告げたことを繰り返し説明した。


「アルバの小屋のシエラという女が魔女だという通報があった。通報した男は我らの同胞で審問官。その情報に間違いはないだろうと確信したのでこの小屋を調査しシエラという女を連行すべくやってきたのだ。これからこの小屋を隅々まで調べる。魔女である証拠が見つかればすぐさま異端審問会に連行する。」


「なんですって!?シエラが魔女ですって?何をバカなことを・・・」


リリーはあきれ顔で呟くがリーダーらしき男が再び大声を出す。


「小屋の中を調べろ!」


「ちょっと!!」


「我らの邪魔をするとお前も同罪で連行するぞ!!」


「っ・・・・」


今にも審問官につかみかかろうとしていたリリーは肩の力を抜き、深く息を吐いた。


リーダーらしき男は鋭い目つきでリリーとシエラを見下ろし、低い声で一言


「逃げるなよ」


と言い放ち、同時にシエラの両腕を掴んでいた男たちに目配せをし、ズカズカと大股で小屋の中へと入っていく。


2人の男たちも慌ててその男の後についていった。


リリーはすぐさまシエラの元に走り寄り、シエラを抱き寄せた。


「リリー・・・ごめんなさい・・・」


「シエラ・・大丈夫。大丈夫よ。」


シエラは審問官の男たちを気にしながら震える声でリリーに問いかける。


「レオは・・・レオはどこに?」


「薬草を摘んでいる時、小屋の方に向かう数人の影を見かけたの。嫌な予感がしたからすぐにキリーナの街へ向かってフローラに預けてきたわ。大丈夫よ。レオはフローラが護ってくれる。」


「ああ!リリー!ありがとう!」


シエラは心底安心し、涙が溢れてきた。

そして2人はぎゅっと手を握り合い男たちが小屋の中を荒らしまわる様をじっと見ていた。


しばらくして1人の男が


「地下室があるぞ!」


と声を上げた。


シエラはか細い声で


「ああ・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・リリー、私・・・」


と呟き、あの日の事故のことをリリーに話さなければと思いながらも、あふれ出る涙と嗚咽で言葉が出てこない。


リリーは震えるシエラの肩を抱き


「大丈夫よ。私が何とかする!」


というや否や立ち上がった。


「リリー?」


とその時、審問官のリーダーらしき男が近づいてきて再びシエラを捕まえるよう指示を出す。


2人の男がシエラの両脇に立ったその時、リリーは男たちに向かって話し出した。


「シエラを離しなさい。その子は何も関係ないわ。この小屋の主は私よ。シエラはただの小間使い。」


「リリー?あなた一体何を・・・?」


シエラに不安がよぎる。


「シエラは魔女なんかじゃない!魔女はこの私!リリー様よ!!」


「・・・・っ!?」


シエラは耳を疑った。


「リリーっ!?」


シエラが叫ぶとリリーはキッとシエラを睨みつけた。

それ以上何も言うなと言っているような気がして、声が出せない。


「ほう・・・お前が魔女か。では地下室の大きな釜はお前のものなのだな?この薬を作ったのもお前で間違いないな?」


リリーは目の前に突き出された薬をみて、少し息をのんだがすぐさま


「ええ。私が作った薬に間違いないわ。シエラは小間使いとして私が雇っていただけよ。だから今すぐシエラを離しなさい!」


と強く言い放つ。


リリーの力強い言葉にシエラを抱えていた男たちは思わず手を離した。


リーダーの男がすかさず


「その魔女を捕えよ!」


とリリーを指さしながら叫び、2人の男は慌ててリリーの両脇を捕えた。


腕を離されたシエラはそのまま崩れ落ち、呆然と座り込む。


そうこうしているうちに地下室を調べていた男たちが手にたくさんの薬草や道具を持ってリーダーのもとへと戻ってきた。


「証拠品押収しました」


「よし、では魔女リリーを異端審問会に連行する」


「はっ!」


リリーの両脇を抱えた男たちはリリーを引きずるような勢いで歩き出す。


リリーは


「ちょっと、ちゃんと歩くわよっ!引っ張らないでよっ!」


と男たちに文句を言いながら小屋から出されていく。


連れ去られるリリーをシエラはただ呆然としたまま眺めることしかできずにいた。


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