不吉な影
友人の過去世を物語として書き起こしてみました。処女作なので拙いところも多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。シエラが体験した世界、そしてその思いを皆様にも届けられたらと思っています。
森に戻ったレオは久しぶりに街に出かけ、フローラに会えたことでさすがに疲れたのか、夕食を食べながらウトウトしている。
「ほらレオ、ちゃんとベッドで寝なさい。」
優しく声をかけながらリリーはレオを抱きかかえてベッドへと運んでいく。
シエラは夕食の片づけをしながら、今日のあの出来事をリリーに話すべきかどうか迷っていた。
そんなシエラに気付いたのか、レオを寝かしつけ戻ってきたリリーが
「街の様子はどうだった?」
と、声をかけてきた。
シエラは少しびくっとしたが
「いつもと変わらないわ。とても賑やかで・・・」
と話し始めて言葉を詰まらせてしまう。
フローラの家へ行く前の出来事を思い出したのだ。
「・・どうかした?」
「ん・・・いえ、異端審問会がまた・・・」
「魔女狩りか・・・。その女性は私たちのように薬草を扱う女性なのかしら。」
「どうやら違うみたい。周りの人の話では夜中に大きなカラスとおしゃべりしていたとかなんとか・・・」
「はっ!?ばからしい!!なんなのそれ!」
「どんな理由で魔女と認定されるかわからない・・みんなが疑心暗鬼になっているみたいでなんだか悲しかったわ。」
「みんな自分や自分の家族を守るために必死なんだろうけど・・・こんなバカみたいなことが平然と行われているなんて、ほんと、悲しい時代だわ・・・」
シエラが見かけた魔女狩りの話をしながらも、シエラの頭の中は馬に轢かれた少年のことを話すかどうかで迷い続けている。
リリーは真面目で正義感も強い。
きっとあの話をしても良い行いをしたと褒めてくれることはあっても怒るようなことはしないだろう。
用心深いところはあるけれど、それは今の時代のせい・・・魔女狩りなどという理不尽なことがまかり通っているこの時代のせいだとわかっている。
でもなぜかこの話は、リリーには話さない方が良いとシエラは思った。
「・・・・・シエラ?」
黙り込んでしまっているシエラにリリーが声をかけてきたその時、リリーとシエラは同時に不穏な気配を感じ取った。
「リリー!」
リリーはシエラに向かって静かに頷くと、静かながらも足早に玄関へと向かう。
シエラも素早くレオの元へ向かった。
まさかあの時のことで何かが・・・
シエラに一抹の不安がよぎった。
しばらくしてリリーが寝室へと入ってきた。
「どうだった?」シエラが聞いた。
「誰かがいるような気配は感じられなかった。ただ・・・」
「ただ?」
「おびただしい数のカラスがこの家を囲んでいたの。」
「カラスが!?」
「ええ・・・数十羽・・・もしかしたら百羽を超えていたかもしれないわ・・・夜も深いのに、そこにたくさんのカラスがいるのがわかった。まるで私たちを見張ってるみたいで、不気味だわ・・・」
「でもカラスは私たちの敵ではないわ。」
「わかってる・・・でも・・あのカラスたちからはとても不吉なものを感じたのよ。」
「そんな・・・」
「今日はもうおしまいにしましょう。灯りを消して、静かに過ごしましょう。」
「ええ・・・そうね・・・」
2人はいつもより厳重に戸締りをしてベッドに潜り込む。
シエラは気持ちよさそうに寝ているレオ顔を眺めながら不安な気持ちが抑えられないまま、まんじりともせず夜明けを迎えた。