5年前(3)
友人の過去世を物語として書き起こしてみました。処女作なので拙いところも多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。シエラが体験した世界、そしてその思いを皆様にも届けられたらと思っています。
森の中に暮らしていると何かと不便なこともあり、フローラに届け物をした時には必要なものを買い出しするのが日課となっている。
買うものは大体決まっているため、シエラの買い物は手慣れたものである。
「さてと・・・買い物はこんなものかしら・・・」
今日の買い出しもほぼ終わり、そろそろフローラの家に戻ろうとしたその時
「うわーーーーーーーーっ!!」
「危ないっ!!」
突然大きな声が聞こえた!
シエラは大きな声のした方へ走り出す。
駆けつけてみると10歳くらいの子供が倒れており、父親らしき男性が子供を抱えているのが見えた。
あんなに大きな悲鳴があがっていたにもかかわらず、周りには他に誰も人がいなかった。
「あのっ・・大丈夫ですか??」
「息子が・・・息子が・・・」
子供を抱えた父親は意識を失ってる息子の名前を必死に呼び続けている。
子供はぐったりとしていて、よく見ると頭と腕から血を流している。
「ちょっと見せてください!」
「はい・・・お願いします!」
シエラがそっと傷口を確認すると、幸いにもそんなに深い傷ではないことがわかった。
「何があったんですか?」
シエラが尋ねると
「突然後ろから馬が・・・息子の身体が馬の下敷きになったんだ・・・」
「頭を打った感じでしたか?」
「いや、よくわからん。一瞬だったから・・・ルイは・・ルイは大丈夫なのか!?」
シエラはぐったりしているルイに向かって小さな声で何かをささやき、しばらくじっと見つめてからルイの胸の上に手を当てた。
父親はどうしていいかわからないのか、子供とシエラの様子を見守っている。
シエラはしばらくそのままでいたが、ふうっと息を吐くとおもむろに肩から下げている袋の中から小瓶を取り出した。
「頭は強く打ってないみたい。これを飲ませてください。それから・・・お水は持っていますか?」
「ああ・・ここに」
「そのお水、貸してください!」
父親からお水の入った布袋を受け取ると血を流している頭と腕にゆっくりと水をかけて余計な血を洗い流す。
シエラはさらに小袋を取り出し、その中からいくつかの小瓶に入った液体を頭と腕の傷口に塗り込んでいく。
「うぷっ!!」
子供の意識が戻った。
「おお!ルイ!大丈夫か!?」
「お父さん・・・・?僕・・・痛っ!!」
「ああ、ごめんなさいね。ちょっと痛むわよね。でももう大丈夫よ。お薬塗ったからね。きっとすぐ良くなるわよ。」
「あの・・・あなたは・・・」
「化膿止めを塗ったのでこれ以上ひどくなることはないと思います。痛みはまだ残ると思いますので、痛みが出てきたらこれを飲ませてあげてください。もう大丈夫だとは思いますが、また化膿してくるようなら森の中にあるアルバの小屋に来てください。私はシエラ。少しなら化膿止めを渡せると思いますので」
シエラはルイという子供の症状について軽く説明し、父親に薬を手渡した。
「シ・・・シエラさん・・・ありがとうございますっ!!」
「骨は折れてないと思いますが、念のためお医者様に連れてった方が良いかもしれません。あ、でもその時は私のことは内緒にしてください。」
「え?内緒に?」
「詳しいことは話せませんが・・・すみませんこれで失礼させていただきます。お大事になさってくださいね!」
呆然としている親子をよそに、シエラは素早く立ち上がりその場を逃げるように去っていった。
「アルバの小屋のシエラ・・・」
「余計なことしちゃったかしら・・・でも、怪我をしている子供はほっとけないわ」
シエラは自分の名を明かしたことを少し後悔しながらフローラの家へと急ぐ。
「ただいま戻りました」
「ママーおかえりなさい」
「おお!シエラ、おかえり。買い物は無事に済んだかい?」
「ええ、おかげさまで。でも、帰りにちょっと」
「何かあったのかい?」
「いえ、大したことではないんだけど・・子供が馬に轢かれて怪我をしていたの」
「シエラお前・・・」
フローラが訝しげにシエラを見つめる。
「やだ、大丈夫よ!骨は折れてなかったみたいだし、化膿止めを塗ってあげただけよ」
フローラから向けられた鋭い眼光にドキっとしたシエラは、その子供の親に飲み薬をあげたことと、自分の名前を明かしたことを言い出せなかった。
「わたしらのことはなるべく人に知られない方がいいんだ。今の時代の人たちからしたら、わたしらの存在自体が恐怖なんじゃよ。だから静かにひっそりと暮らしているんじゃないか。それはわかっているだろう?」
「もちろんよ!大丈夫!大丈夫よ!!」
シエラはまるで自分自身に言い聞かせるように何度も大丈夫とつぶやいた。
やはり名前は明かさない方が良かったのかもしれないという不安を隠すように・・・。
久しぶりに会うフローラとの話が楽しくて時間はあっという間に過ぎていく。
気がつくと太陽が大きく西に傾きはじめていた。
シエラはフローラの膝に頭を乗せてぐっすりと眠りこんでしまっているレオに優しく声をかけた。
「レオ、レオ、そろそろおうちに帰るわよ。ほら、起きて」
「ん・・・う~ん・・・」
眠い目をこすりながらもレオはゆっくりと身体を起こして立ち上がり
「おばあちゃん、また遊びに来ても良い?」
と甘えた声でフローラに問いかける。
「ああ、もちろんじゃよ。いつでも大歓迎だよ。」
レオは飛び上がりながら「やったー!!」とフローラの小さな身体に抱きついた。
フローラはそんなレオの頭を優しく撫でながら
「さあ、そろそろお帰り。ゆっくり気を付けて帰るんじゃよ。」
「うん!またね。おばあちゃん。」
「フローラ、いつもありがとう。また来るわね。お身体お大事に」
シエラとレオはしっかりと手を繋いでフローラの家を後にした。