5年前(1)
友人の過去世を物語として書き起こしてみました。処女作なので拙いところも多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。シエラが体験した世界、そしてその思いを皆様にも届けられたらと思っています。
「シエラ、そこにある薬草袋を取ってちょうだい」
リリーは大きな釜をのぞき込みながらシエラに向かって指示を出した。
シエラは近くにあった薬草袋を素早くリリーに手渡す。
「ねえリリー、今作ってるのはお腹の中の子供を殺してしまう恐ろしい薬でしょう?こんな薬、一体誰が使うの?」
「生まれてはいけない子供を妊娠してしまったバカな貴族がいるのよ・・・全く・・・命をなんだと思ってるのかしらね・・・」
リリーは憤慨しながらもシエラから受け取った薬草袋の中からひとつまみの薬草を取り出し、目の前の大きな釜の中に放り込みぐつぐつと煮立っている釜をゆっくりとかき混ぜていく。
「あたしたちが作る薬は人を殺すためのものではなく、人を助けるために使ってほしいものだわ。使い方によって毒にも薬にもなる薬草だけれど、わざわざこんな薬を作らなきゃならないなんて・・・矛盾している自分にも腹が立つ!!」
リリーは正義感の強い女性だ。自分の行いが正しくないことを知りながらもそうしなければならない状況に憤りを感じている。
リリーとシエラは同じお師匠様から薬の作り方を習った弟子同士。
年が近いのもあって、2人はとても仲が良い。
少し年上のリリーのことをシエラは本当の姉のように慕っている。
薬草から薬を作りだすこの仕事に2人は誇りを持っているが、この時代、薬草から薬を作りだす女性は異端の証として魔女狩りの対象でもあった。
魔女の疑いをかけられ異端審問会で厳しい審査をされた上、魔女と認定されれば火あぶりの刑、または絞首刑となってしまう。
そのため2人は森の奥深くにある古い小屋の地下室でひっそりと薬作りをしているのだ。
「この薬が完成したらバカ貴族に連絡するわ。シエラはそっちにある痛み止めと化膿止めを街のフローラ婆さんのところへ持っていってちょうだいね。」
「ええ、わかったわ。あの・・・リリー・・・そのおつかい・・・レオも連れてっても良いかしら?」
「最近あまり外に出ていないでしょう?街に連れて行ったら気分転換にもなるし、外の様子を見せるのもレオにとっては良い教育になると思うの。だから・・・」
ここ最近魔女狩りとやらで街の中が騒がしくなっているからなのか、リリーもどこかピリピリとしているのをシエラは感じ取っていた。
レオのことを大切に思ってくれていることは充分理解しているシエラだが、毎日山の中にある家の中に閉じこもっているレオを見ているのが不憫なのだ。
「・・・・・」
シエラはリリーを見つめる。
「・・・・っ、わかったわよ。でもね、レオはまだ5歳よ。今のご時世私たちがやってることがいかに危険なのことなのかはわかってないんだから、充分気を付けてね!
あきらめたような声でリリーがそう告げると
「うん!わかってる!余計なことはおしゃべりしないように言い聞かせていくわ。」
シエラはそう言い終わるか終わらないかのうちに、痛み止めと化膿止めを大きな袋の中に入れて肩から下げ、地下室を飛び出していった。
「行ってらっしゃい・・・って、もういないわね」
ため息をつきながらリリーがつぶやくと遠くからシエラの行ってきますという声が聞こえてきた。
リリーは苦笑しながら手元の大きな釜の薬を再びかき混ぜ始めた。