第6話 雇用契約
ケルベスが挑発ともとれる発言をしてすぐのこと。突如、言い様のない違和感が彼等を襲った。何がどうなってるから何々だ、のように説明出来ない不明瞭な恐怖が背筋を凍らす。それでも表現しようとするなら、世界が危険を訴え本能がそれを感知した。が一番近い表現だろう。
状況を察っせた者は一部を除き全員が青ざめ、狼狽え、無力な虫のように地に這いつくばり龍の慈悲を望むばかりだった。
「あチゃー。ボスが喧嘩うルかラ。」
余裕綽々と呟いたメアリーも額からは冷や汗が垂れていた。ケルベスの腕を掴み、いつでも安全圏─そんな所あればの話だが─に移動できるよう備えている。
「儂は契約がしたい。」
しかし、ケルベスはメアリーに掴まれた腕を振り払いながらさらに堂々と宣言した。
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きっかけは、軍の上層部からの指令だ。「幼い龍を捕まえた。鬼のお前が管理しろ。」つまり、"様子を見て有害そうなら処分しろ"という意味。いつも通りの任務。いつも通りの殺戮。まだ年若いらしい龍人を多少不憫に思いつつも、つつがない日常を守るため、今日も大人しく飼い犬ならぬ飼い鬼として、身内の角を折った憎たらしい国家に忠誠を誓ったのだ。
平穏な生涯など、赤子の頃から無いのだと理解していた。だから今死んだとて後悔はない。しかし、メアリーや他の人達を巻き込んでしまったことが心苦しい。
ああ、そうだ。何悟ったようなことを思っている。そんなこと思う暇ないだろうよ。先程言ったように、こちらとて命が懸かっているのだ。それも自分一人だけの命ではない。部下全員の命だ。失敗は出来ない。任務失敗はイコールで死なのだから。
今日死ぬも明日死ぬも誤差の範囲だろう。そう自身に発破をかけて奮い立たせる。生き残る道は一つだけ。この状況を上手く対処する他ないのだ。
鬼の自分と比べても次元が違うとしか言えない、上位者との対峙を意識し肌が粟立つ。自身の些細な行動一つで、この場にいる全ての生命が消える。そんな重圧を久方ぶりに自覚し、かひゅりと喉から小さな音が鳴った。己の肩に守りたい人達の首があるのはいつもの事だろうに。
はやる鼓動や震える手を悟られたくなくて、メアリーの腕を振りほどいた。そのまま目だけで命令する。撤退しろ、と。
不安と恐怖を隠し通すため、使い慣れた虚勢をはる。尊大な物言いは、乳飲み子の頃から愛用している脆い鎧だ。
メアリーが異能持ちや看守をどこか別の場所に移動させるのを傍目に見ながら、浅くなる呼吸を必死に抑える。
早く来てほしい。この緊張から逃れたい。
まだ来ないでほしい。彼等が逃げるまで待ってくれ。
相反する願いを、会ったこともない幼龍に念じる。聞き入れられたのは、二つ目の願いらしかった。
メアリーが最後の一人を移動させたのを確認し、構えていた太刀をなおす。そして静かにその場に座り込み、ゆっくりと目を閉じた。
何分たったのだろう。もしくは数秒か、それとも数時間か。悠久にも一瞬にも感じられるその時間は、微かな揺らぎによって途切れた。
自身のものではない存在を認識し、瞼を開く。そこに居たのは、一人の少女。
途端、頭蓋骨の中に指を入れ無神経に覗かれているような感覚に襲われる。彼女の異能は、何でも見ることが出来るというものだったか。では正しく今、自分の頭は覗かれているのだろう。気付いたのなら、無抵抗ではいられない。
自分以外の全てを拒絶するように、全身に力を入れる。頭が割れるような頭痛がするが些細な事だ。
歯を食い縛っているのを隠すため、威嚇を含めて口角を引き上げる。欠片の余裕すらなくとも、相手に何も覚らせてはならない。
お前など相手にならないな。こっちはまだまだ余裕だぜ。そう周囲に思わせろ。自分は強者で、支配者で、捕食者であると錯覚させろ。弱者であることを覚らせるな。
それがこの世界で生き残る唯一の方法だと。そう教えられた。そう思っていた。そして、これからもそう生きていくのだろう。
─今、この瞬間のように。
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傾き始めた太陽が、見つめ合う可憐な少女達を照らす。それぞれの頭にある角を見なければ、誰も彼女らを鬼と龍だとは思わないだろう。
「よんだ?」
ねじれた角を複数はやした金髪の少女が、旧知の間柄のように声をかける。
尖った耳、赤と青のメッシュが入った黄金の髪、赤金色の瞳、頭に生えた複数の白い角、爬虫類の膜のような白い翼。異形の姿。しかし、異常の美しさがそこにあった。
「ああ。呼んだな。」
一角獣のような角をはやした黒髪の少女が、無愛想にこたえた。
同じく尖った耳、艶やかで癖のない真っ直ぐな黒髪、鮮血の瞳、額にある真っ直ぐな白い角。全てが彼女の持つ人外の美を際立たせている。
会話だけ聞けば、明るい少女と、その友人の気難しい少女の待ち合わせ現場のように思えなくもない。しかし、金髪の少女はこの場に興味関心を向けるものはないというような無表情で、もう一人は威圧的で苛烈そうな笑顔で相対している。刺さるような冷気が満ちていた。最初の会話以降、両者とも口を開かない。
─キュイン。不意に機械が起動する時のような音が鳴った。
キュルキュルキュルキュル。…ザッザザ。機械音のような音に、ノイズが混じる。そして、カチリと音がした後、何も聞こえなくなった。
静寂。後に、異形の声。
「何が欲しいの。」
草を通り抜ける風の足音も、鼓膜を揺らす鼓動の音もケルベスの世界から追い出された。音のない世界で、ドラの声だけが聞こえる。しかし、ドラは口を開いてはい。
異能を使って脳に直接語りかけているのだろう。ケルベスはそう理解する。
「十年間、儂の忠実なる部下として働いてくれ。」
ケルベスはそう言った。
「そのかわり貴方は何をくれるの?」
何かを望むものは、何かを捨てなければならない。
「儂がやれるものなら何でもくれてやる。部下以外じゃがな。」
この国。いや、この世界最高峰の武力を欲しているのだ。ケルベスの全てを使わなければ、釣り合わない。
「貴方の全てを頂戴って言っても?」
ドラがケルベスの頬を両頬を包み、瞳を覗き込む。
彼女は虚仮威しなぞしていない。ケルベスは十年後に自身に残る物など文字通り何もないだろうと悟った。
「龍を使役するからの。それぐらいの対価は払おう。それとも、まだ足りんと言うのか?」
それでもケルベスは引かない。金髪に視界を占領されようと、未来の自分がほぼ確定で廃人になろうと、ひけないのだ。撤退命令は出されていない。敵前逃亡は死刑である。
「…わかった。貴方の願いを叶えたげる。その代わり私の我が儘も叶えさせてね。」
ドラはそう言って頬から手を離す。
「よかろう。」
ケルベスの了承を聞いた後、ドラは跪きケルベスの手をとる。そして流れるように手の甲に唇を落とした。
片膝をつき目を伏せた龍が、不遜な鬼に傅く。いつの間にか太陽は傾きを増し、その姿を隠しつつあった。夕焼けが彼女らを照らす。
「今から十一回目の春まで、私を好きに使えばいい。」
季節は冬。だが、まだ秋の名残りがある。暦を使えばきっちりと図ることも可能だろうに、それを使わないのは慈悲か。それとも…。
しかし、オマケの期間まで貰ったのだ。契約に不満はない。
「期待しておるぞ。龍。」
「精々上手に使ってね。」
生意気なことには目を瞑るとしよう。
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月明かりに照され、深い眠りから目を覚ました。寝過ぎたのか頭痛がする。確か足折られて、投げられて…。あ、アカン。ほんま頭痛い。
う゛ーと唸りながら頭に手を添えて周りを見回す。霞んで不明瞭な視界と頭が割れるような痛みのせいで顔が盛大に歪んだ。今の自分は多分、全然可愛くないんやろうな。ちゃう、ウチはいつでも超可愛いもん。
取り敢えず折られた骨を確認しようか。そう自分の足を見た。気絶する前は足の間接が一つ増えていたような気がする。だが、今は綺麗に繋がっている。変色すらも治っていた。
クリス食べてて良かった。見た目はほぼ治っている。ならばとヒビの有無を判断するため、恐る恐る足を触った。
弾力のある肉と、固い骨の感触がする。しかし、恐れていた痛みはこない。完全に治っとる。つい安堵のため息を漏らした。
無事に落ち着きを取り戻し、次第に状況を把握する。周囲に目を覚ましている人はいかった。異能持ち達も、看守も、キモい刺青いれてる見覚えのない兵士も、誰も彼もが夢の中。てかほんま誰やねんコイツ。
加害者はいなかった。その事にまた安堵する。もう骨を折られるのはこりごりや。
辺り一面は花畑でとても軍事施設だとは思えない。そういえば、気絶する前に見た施設は炎に包まれていたっけ。でもここは一時避難場所という訳でもなさそうだ。視認できる範囲には壁も柵も何もない。
眠ってる人達を起こさぬよう、ゆっくりと立ち上がる。膝を立てた時、服の裾に引っ掛かりを感じた。正体を確かめるべく慎重に後ろを振り返る。サルヴァだ。彼の手が引っ掛かっていたのだ。
別にどうという事もないので、ペチりと彼の手をはたく。さて、此処はもう塀の外だろうし、この様子では追手はすぐに来ないだろうから、今すぐ逃げてもよさそうだ。ちゅうか逃げるべきや。せやのに。せやのになぁ。
「何でウチはサルヴァの手当てしてんのやろなぁ。」
情とか恩とかそんなもん、くだらへんと思ってんねんけどなぁ。そうぼやけども、回復魔法は止まらない。
「アホやろ。コイツのがめちゃくちゃアホやけど、ウチも大概やんか。」
今日会ったばっかの他人やし、アホやし、そんな強いって訳でもないし、格好よくも可愛くもないし、コイツを助けん理由なら幾らでもある。
だけど、下半身とれた時に回復してくれたし、投げられて地面に落ちるときもコイツが下敷きになってくれた。口悪いし育ちもそないよろしくないんやろうけど、なんだかんだ良いヤツやしで、助ける理由もそこそこある。
「そないな人の事見捨てたら、ウチの性格が悪いみたいやんか。」
らしくない行動に、悪態をつく。あぁホンマにらしくない。
「これで貸し借り無しやからな。」
めきょめきょと骨の治る音がする。痛そうな音。サルヴァの眉間に大量の皺が寄ってるから、実際痛いんやろうな。ウチ回復魔法苦手やねん。ごめんごめん。
数分かけて、やっと両足の骨が治る。すぐさまサルヴァを揺すったがなかなか起きない。
「なあ起きてや。」
かなり強く揺すっても全然起きひん。寝汚いなホンマに。
「起きろや。」
つい頬っぺたを叩くと、すぐにサルヴァが飛び起きた。はよ叩いときゃよかった。
「いってぇ。」
誰だ殴りやがったヤツ、なんて呻きながらサルヴァはあたりを見回す。そしてウチの事を認識したとたんに「お前かよ。」とか言って二度寝ぶちかましやがった。
なんなんコイツ。見ず知らずの場所にほっぽり出されて、周りに他人しか居らん状況で呑気に二度寝かませるって。生存本能よわよわやん。ざーこざーこ。
「もうええもん。」
拗ねたようにそう悪態を付いて、サニーは花畑から立ち去ろうとした。
花畑と森の境界あたりでサニーは止まる。特に理由はない。莫大な不安がサニーを襲ったのだ。花畑をでたら殺される。明確な根拠はない、だが明瞭な恐怖がそこにあった。
「おい、お前。」
舌足らずな声に引き留められ返事を迷っていれば、更に声を掛けられた。
「聞こえない訳ジゃないダロ。」
逃亡を諦め踏み出した足を後ろへ下ろす。途端、感じた不安が霧散した。
「無視なんテ寂シい事スルなよ。オレは上官ダゼ?挨拶くラいシロ。」
常識ダロ?なんて気の抜けたセリフを吐く割に、相手からは何一つ感情が抜き出せない。
「怖がラセタみタいダな。悪かッタッテ。」
声は笑っていた。精巧な人工物のような、機械が『笑っている』を真似たような声だ。それがゆっくり近づいてくる。
「仲直リシようゼ。ほラ。」
そいつは遂に真後ろまで来てしまった。
「握手スルかラ、振リ返レよ。」
従う以外に道はなかった。大人しく後ろを振り返る。奇妙な刺青の兵士がそこに居た。いや、刺青ではない。皮膚を覆うその模様に、サニーは見覚えがあった。
まだ幼い頃、近付くなと言われた場所があった。興味本位でそこに行けば、そこは鬼の集落が在るだけだった。なんだこんなもんか、とサニーが帰ろうとしたとき、鬼とはまた別の集団が来た。
そいつらが山賊なのか、軍なのか、それ以外の何なのか、今となってもサニーは分からない。分かるのは、愚かにも鬼に喧嘩を売った者達の末路だけである。一方的にいたぶられる悪漢達を、サニーは木の影から見つめていた。
しかし窮鼠猫を噛むとも言う通り、悪漢の一人が側に居た鬼の一人に対し刃物で襲い掛かった。そして、そいつの角を折ったのだ。角を折られた鬼は激怒し反撃することもなく、ただその場にくずおれた。戦場の真ん中に座り込む味方を、誰も心配する様子はなかった。むしろ道端で干からびた蚯蚓を見るかのように醒めた目で蔑んでいる。
外敵を処理した後、鬼達はかつての同胞を取り囲む。そして抵抗する"元"鬼を縛り、その首を切った。
ゴトリ。鈍い音をたて、ある程度の質量を持った球体が落ちると、ゴロゴロとサニーの側に転がった。
開いた瞳孔と鉄の匂い。蔦が絡まったような模様が、今もまだ記憶にこびりついている。
鬼だ。『ツノオレ』の鬼だ。畏怖される鬼の、更に忌み嫌われているツノオレだ。
幼い頃の恐怖から差し伸べられた手を握ることはしなかった。
暫くして、自身の過失に気付く。
浅ましくも己が失態を取り繕うため、サニーは行動した。─しようと思ったのだが…。
「こレデ仲直リは完了ダな。」
失態など何処にも無かった。
彼の手を握らなかった筈だ。なのに自分の手はしっかりと彼の手を握っていた。
「俺はメアリー。見テの通リツノオレダよ。」
自分の額をコンコンとつつきながらにまにまと笑うメアリーに対し、理解が追い付かず固まる。
そんなサニーを気にする様子はなく、彼は近場の岩に座った。
「お互いボスは今居ねぇんダ。気楽に話ソうゼ。サニー・アングスト。」
胡座をかきながら人を食ったような笑みを浮かべ彼は言う。
「それとも…、サニー・カリュブディス・アングストの方が良かったか?」
刺されたかのような衝撃がはしる。なぜ、それを知っているのだ。周囲に気配はなかった筈。
「なん」
「何デ知ッテルかッテ?良く言うだろ。壁に耳あり障子に目ありってな。」
「おっさんみたいな声で言うこともおっさんやな。」
おちょくられてる。そう感じ衝動的に口答えした。直情的なのは悪癖だ。でもまぁ、もういっか。どうせもうすぐ脱走の罰を受けるのだから、嫌味の一つ二つ言ったところで罪の重さは変わらないだろうし。
「酷いな。こレデもまダ二十歳なんダゼ?」
気にした様子もなくメアリーは言い返す。
「サテ。無駄話もここまデにシテ本題に移ルか。」
「サニー・カリュブディス・アングスト、ドラ、サルヴァが陽動。ソの隙にモンドール・スキュラ・アングスト、アトラナート、クリサリス・パンドールが脱走。ソの後誰がドう動くかは聞かないシ、お互の邪魔をシないこトを条件に協力スルこトをサルヴァ、ドラを除く四人が承認。ソれゾれの目的は…と、こレは内緒にシトくか?」
ペラペラとメアリーが語るそれは、サニー達がしたお粗末な行動。犯行の事実確認。
「ドラも何も言わズにソの案に便乗シテいタかラ、アイツはタダの愉快犯ダな。可哀想に。サルヴァはお前ラの口車に乗セラレタッテわけダ。アイツが来ル前に概要は出来上がッテタよな。」
仲間外レは良くないゼ。メアリーが言う。
「アイツが来タ時、お前は自分の変わリに囮にシようトシタ。デも、想像以上に馬鹿ダッタかラ計画を変更シなかッタ。英断ダな。ドッチか一人ダけジゃ瞬殺ダッタダロうかラ。」
世間話をするような軽さで、サニーの行動が明るみにされる。見られた記憶も聴かれた気配もないのに。
「今言ッタこトに間違いはあルか?言い訳や弁明があルなラ聴くが。」
「ありません。」
「元気が有リ余ッテいルソうデ何よリダよ。」
明確に責められた訳ではない。でも、今この現状で言い訳をするほど、サニーの胆は太くかった。
そうか。興味もなさげにメアリーが言う。いつの間にかその手には書類が握られている。
「報告書ッテ言うか反省文に近いんダが、何デこういう書類は手書きジゃないといけないんダロうな。」
足を机にして報告書を書いていたメアリーがそう言った。
「敬意ッテやツなのかな。でも、手書か否かでソんな事分かるか?」
なあどう思う?と問われるが、サニーからすれば返事をすべきか否かの判断の方が図りかねる。
「なんダよ。ボスが足折ッタ事、まダ引き摺ッテんのか?」
「引き摺んなって方が無理やろ。」
仲良くもない大人に話し掛けられ続け、ついサニーは言い返す。こちとら天下の思春期様だぞ。気を遣えやこの野郎、とでも言うように刺々しく。
「確かにボスの解決法は大体力業ダゼ?でも今回はあレも正解ダロ。」
小馬鹿にしたようにメアリーが言う。
「あレぐラい厳シく叱ラレタ後ジャ、誰も罰を与えラんないかラな。」
「けど、あんなに暴力的やなくてもええやんか。」
「暴力に育てラレタ子供は解決法に暴力シか浮かばねえかラな。ま、お前ラの運が悪かッタッテ事ダ。」
なんやのよ。不服に思いながらもメアリーは何も言わなかった。わかってるのだ。あの方法で、自分達は護られたことを。
「トこロデ、ソの格好ッテ趣味?」
「うるさ」
"い"の代わりに空気が漏れる。メアリーの後ろに、恐れていた鬼がいた。
何故ここにアイツが居る。さっきまで足音すらなかったのに。
「無駄話はすんだか?」
龍を従えて鬼が来た。染み付いた硝薬と鉄の匂いがした。
「報告書もバッチリダゼ。」
ウインクしてメアリーが言う。ケルベスは冷淡な眼差しを向けている。
そんな鬼達のことも、膝が震えてまともに立っていられないサニーのことも、ドラは気にする素振りを見せず、ただ暇そうに夜空を眺めていた。
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メアリーとの会話が一段落ついて、ケルベスはドラに向き直る。
「説明はおぬしからしろよ。」
ドラはおもむろに歩きだし、サニーの後方─サルヴァに向けて手を翳した。
微かながら眩い閃光とほぼ同時に何かをひっぱたいた様な音がなる。音か痛みか、はたまたその両方かによってサルヴァは飛び起きた。突如覚醒した意識に脳がついていってないのか間抜け面だ。
状況に理解が追い付いていない魔法使い二人を余所にマイペースな龍が言う。そこはかとなく、楽しそうに。
「今から、二人には私と一緒に、ケルベスの部下に、なってもらう。初任務は、クリス、モンド、アトラナートを、連れ戻すこと。」
一体全体どうなっているのか?二人には分からない。
二人には分かるのはドラがケルベスの元に下ったこと、拒否権は無いことだけ。そして、無意味な抵抗をする気概もなかった。
脱走未遂の魔法使い二人と家出龍一匹と、脱走した亜人一人と魔法使い二人による鬼ごっこが今始まった。
あんま本編と関係ないキャラクター設定その一
メアリーは舌の半分がないのでめっちゃ頑張って喋ってる。
次回は8月末くらいです。




