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ケモノたちの革命  作者: 夢みがちゃん
第一章 人生万事塞翁が馬鹿
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第3話 無計画的犯行

「計画を話し合う為に集まったんやないの?」


和気あいあいとした空間を潰したのは意外な事にサニーだった。


「そうねぇ。クリスがぁ考えがあるぅって言ってたわぁ。」


「んで、どんな計画なんだよ。」


「それの事なんだが…。」


問い詰める俺達にクリスが言い澱む。


「実は、ハッタリなんだ。」


数秒の沈黙。後に非難。


「ふざけんなよ。」


「ふざけぇないでよねぇ。」


「仕方ないだろ。そう言わないと誰も来る筈が無いんだから。」 


アトラナと俺が責めれば、クリスは仕方なかったんだと開き直る。


「なあ、ほんまになんもないん?」


「あるにはある。やろ?」


「骨組み、説明して。皆で、細かいところ、考える。」


幼稚な言い争いに終止符を打ったのもサニーだった。次いでモンドとドラが助け船をだす。


「かなり理想に近いが、ある。」


不透明な前置きの後、クリスは続けた。


「要約すれば、他の奴等を暴走させて僕らが叩く。」


計画は何とも愉しそうな物だった。



「道筋はこうだ。先ずこの施設の電力を落とす。そしたら皆は避難のために大部屋に移る。次にモンドが集まった志願兵を混乱させて暴れさせる。ある程度暴れさせたら僕達が叩き潰す。それで僕達の評価が上がるか、志願兵の待遇が改善されるか、僕達以外が隔離か処分されることで僕等は部屋が貰えるって訳だ。」


「そんなにぃ上手くいくぅかしらぁ。」


「でも、きっとそれ以上は、出来ない。」


「但し、この計画は少なくとも三つの賭けがある。一つはモンドの催眠が途中で解けること。二つ目は軍人か志願兵のどちらかが押し負ける事。」


「二個目はあんま気にせんでええと思うよ。集まったんは烏合の衆やし、管理側もそんな強ないし。」


「一つ目もそんな気にすんな。気絶でもせん限り解けんからな。」


「三つ目、これが一番危惧すべきことだ。」


「んでそんな溜めんだよ。」


「カッコつけたい年ごろなんやろ。知らんけど。」


「あらぁ?経験談かしらぁ。」


「早よしてや。」


 クリスの説明に随時茶々入れする俺達。格好付けて話してるのに加え、俺らがふざけまくるもんだから点で進まない。


「進めてもいいかな?。」


わざとらしく咳払いをしてからクリスは言う。


「この暴動未遂の収集を、施設の兵士を丸ごと処分するって方法で取ることだ。」


「つまり?」


回りくどい言い方につい疑問を投げれば、暇で爪を弄っていたアトラナがそれに答える。


「全員をぉ殺すことでぇ解決しちゃおって思われるかも知れないってことよぉ。」


「俺らまで処分されんのかよ。」


「お前ちょっと黙っとき。」


何でだよ。と吠えればお前が阿保やからやと返される。


「大丈夫。全員が、死ぬことは、ない。」


やんやと騒いでいれば、唐突にドラが口を開いた。


「何でや?」


妙案を思い付いたのかも知れないと皆の思いを代表しモンドが問う。


「私は、死なない。貴方達が、死ぬだけ。」



 話が進まん。とモンドが大袈裟にため息を吐いて、ドラとサルヴァは会話から追い出された。部屋から追い出されなかったのは、せめてもの幸運か。


「なぁ、お前も馬鹿なのか?」


「違う。悪ノリ、が過ぎた、だけ。」


「じゃあ馬鹿じゃねぇのか。」


余り口が上手いとは言えない上に相手が無口なので全く話が続かない。


「なぁ、」


「好きな、食べ物は、パイ。甘い方。」


「俺は。」


「肉全般。」


「じゃあ、」


「年は十三。」


「おれ。」


「十五。」


「それじゃ、」


「家出の、原因はおじいさま。貴方のは、きいた。」


 暇を持て余し雑に話題を振れば、雑に返答された。

 他の奴等と一緒に話そうとするも、皆難しい計画を作成中で割り込めない。終いにはどう会話をすれば良いのか分からなくなり黙っていれば、ドラが話し掛けてきた。


「分かってるの?」


興味深げに首を傾げて質問される。


「なにが?」


つられて首を傾げるとドラは困惑した。何でそっちも困るんだよ。

 少しの合間首を傾げて見つめ会うという端からみれば間抜けた空間を維持していたら、ドラはあぁそうか。と何かに納得したようだった。


「作戦、どこまで、理解して、る?」


一応文の形をなしては居るが片言で聞き取り辛い。それでも投げ掛けられた疑問は理解できた。発音の方はその内、どちらかが慣れるだろう。


「真っ暗にした後、暴れんだろ。」


それ位の事は分かってる。


「疑問、あるんでしょ?」


「…。何で避難所に皆行くか知ってんだよ。」


「当然。だって、最初に言ってた。もし、警戒音がなって、教官が避難所に行ったとき、居なかったら、撃たれる。から。」


「まじかよ。怖ぇな。」


「じゃあ。どうやって電気、消すか、知ってる?」


「そりぁ…。知らねぇな。」


別に見栄を張る理由も意味もないので正直に答える。


「あそこの、ブレーカー。壊したら、消えるよ。」


白魚の指が指し示すのは初日に近付くなと言われた物だ。


「あれを壊せば良いのか?」


「そう。貴方なら、殴れば、一発。」


ドラが頷く。

 ならば躊躇する必要はないと腕を振り上げる。


「計画の内容は以上だ。準備に時間が掛かるから、電気は最後に切ろう。」


クリスが言い切るのと俺の腕が箱に当たるのは同時だった。



        ▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 耳をつんざく様な音が響く。一拍遅れ、それが警戒音だと気づいた。すかさず音の方角を見れば箱を壊したサルヴァと唆したドラが居る。


「なにやっとんねん!」


モンドの糾弾も最早意味はない。今すべき事は速やかな計画の変更と実行だ。電気が止まるまで後二分、つまり二分以内に準備を終えなければならない。多少どころでない計画の穴も、信用できない共犯者も、些細な事である。そう思うしかない。


「二人とも、暗闇でも動けるか?」


戦犯(サルヴァ)元凶(ドラ)に声をかければ、問題ないと返答される。ならば今修正すべき事もない。付け焼き刃で悪いが、教官らの懐を抉るくらいは出来る筈。失敗すればその時。誰かの首を渡せば済む話だ。

 今は失敗時の言い訳を考える暇はない。時間は刻一刻と過ぎていく。早く指示を出さなくては。


「アトラナとドラは停電後に通路を塞いでくれ。教官室と避難所を繋ぐ通路意外全てだ。」


「わかった。」


「かかったのはぁどうするのぉ?」


「死なない限りは好きにしてくれて結構。」


太っ腹ねぇ。と笑いながらアトラナは移動する。少し遅れてドラも着いて行った。


「サニーとサルヴァは教官室へ。合図を送るからそれまでの時間稼ぎをして欲しい。必要とあらば武力行使も視野に入れてくれ。」


「わかったぜ。」


サルヴァが元気良く応え走っていく。サニーも移動を始めようとしたが呼び止めた。


「回復能力を食べたことは?」


「ない。」


短い返事。それで十分。

 痛い思いは出来ればしたくない。だが状況が状況だ。諦めて自身の人差しを切り落とし手渡す。サニーは素早く理解した様で僕の指を食べ目的地に急いだ。

 じくじくと痛む右手を抑え、モンドに指示を出す。


「君は避難所の志願兵に催眠をかけて暴れさせてくれ。僕が援助する。」


言い終わるより先に指が戻る。回復能力のせいで此処に来たがこれが有るお陰で無理が出来る。恨めば良いのか感謝すれば良いのか。

 避難所はどの施設からも一定の距離がある。つまり食堂からでも他の兵士に紛れる事が可能な訳だ。移動の合間に今回の共犯者について対策含め考えておこう。



 ドラ。龍人の少女。千里眼と悟り―真理眼とでも言おうか―の異能力持ち、更に圧倒的な筋力と回復能力のチーター。黄金の瞳とサファイアのメッシュと混じった同じ色のショート髪、象牙色の陶器の肌と整った容姿をもつ十代前半の女児。猫目ぎみ。会話が拙いのは母語が別に有るからだろう。

 世の中にはありとあらゆる力がある。筋力、知力、権力、財力、統率力、この内筋力以外は場が整えば他を圧倒する力がある。議論を支配できる力だ。しかしそれは全員がお行儀良く席に着いていればの話。テーブルをひっくり返す事が出来るのは筋力だけ。ドラと敵対した場合、話し合いのテーブルに座らせるまでが一番の難所だろう。それに彼女の悪戯好きの性格も厄介だ。相手を侮った様な態度は圧倒的強者の余裕か、それとも若者故の全能感か。


 アトラナート。蜘蛛の亜人。常に黒い布で目を覆っている紫色の流している長髪を持つ褐色肌の女性。上半身だけなら大抵の女性愛者は楽に転がせるだろう美しいボディラインと声をしている。十八~二十歳位だろうか。


 間延びした発声は亜人の多いという南側の訛りによるもの。異能力は"燃えない糸を出せる"というものだが、亜人はそもそもその混じった動植物の個性はデフォルトで使えるものだ。つまりは別の異能力を持っていると考えるべきだろう。何故嘘を付いたのか?答えはきっと此方を信用できないからだろう。僕もそうだ。


 サニーとモンド。容姿は似てないが兄妹(兄弟かもしれないが)と主張している。よく日光に当たるのだろう健康的な肌をしている。サニーは糸目と肉感的な唇、ミディアムロングの髪、モンドは翠と碧のオッドアイと刈り上げられた短髪、サニーよりよく焼けた小麦色の肌が特徴。右目にある泣き黒子と蛍光色の髪、西部訛りが共通点。

 異能力はともに食事による他の能力コピー。十五~十六歳位。警戒すべきは汎用性の高い異能力とどのコミュニティにも入り込める社会性だ。仁義や人情をやけに重んじる事から、元は組織に属していたのかもしれない。

 

 サルヴァ。警戒する必要はない。異能力は怪力。頑丈さが売りだが知恵が少々足りなさそうだ。薄い蒸栗色の短髪とグレーに青が混じったような眼、血色の良い顔の中央にそばかすがある少年。鮫のようなギザギザした歯が個性的。年はサニーやモンドと同じ位だろう。こいつのせいでこんな状況になっているのだから後で二、三発殴ったって良いだろうか。

 会話や言動から世間知らずなことが伺える。『区域』出身なのかもしれない。性格は楽観的で快楽主義。こいつに対する警戒は要らないが、余計な厄介事から逃れるためにも眼を光らせるべきかもしれない。


 思考を回し歩けばいつの間にか避難所に着いた。後は計画通りやるだけだ。運命は神にでも委ねておけ。

        

        ▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 アトラナートはそうそうに計画に飽きていた。停電した後直ぐに行動を開始した彼女等は、通路を素早く閉鎖した。糸と鎌鼬により塞がれた道は、何人たりとも通しはしないだろ。たしかにクリスの策は万全とは行かなくとも成功率は高い。でもぉ、それじゃあつまらないでしょぉ?もっともっとスリルが欲しい。身を切るような刺激が、魂を焦がすような絶頂が。


「燃やす?」


自身の願望に呼応したようにドラが提案する。あぁ、そういえば彼女は人の思考が読めるのだった。だが自重する必要はない。今自身を縛ってない時点でドラは止めるつもりはないのだろう。


「良いわねぇ。燃やしましょぉ。」


ならば、魅力的な提案に逆らう理由はない。本能のままに燃やせばいい。

 指先に集中し火種を糸に投げ入れる。自前の糸も炎も全て私の手足であると意識すれば、たちまち建物は火の糸に包まれた。


「私たちぃ悪い子になっちゃたわねぇ。」


「もともと、悪い子。でしょ?」


可憐な女性二人がクスクスと笑い合う。轟々と燃える炎が、彼女等の異常性を露にしていた。



        ▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 クリスの指示に従い、サニーとサルヴァは管理室に到着する。中では誰が何をどうするかの指示が出されていた。おそらくあちらにも司令塔役がいるのだろう。俺達の役目は時間稼ぎだ。やつらが実行するまでの間は暇だろう。そうたかを括っていた。その時だった。


「おい。はよ姿を現さんか。」


よく通る高圧的な少女の声が辺りに響いた。バレたのだろうか?いや、そんなことない筈だ。俺達は扉にも壁にも触れてない。音を出すようなヘマもしない。センサーだって無いのだ。


「隠れても無駄じゃぞ不届き者が。子鼠が二匹、喧しくてかなわん。はよ去ね。」


嘘だろ。サニーと顔を見合せる。彼女は青ざめた顔をしていた。きっと俺もそうだろう。


「今はまだ些事じゃ。大人しく従うとするなら不問にしてやってもよい。」


放火でもせん限り儂らは寛大じゃ。と言われ、隠れるより話し合ったほうが良いと判断し扉に手を掛ける。

 俺達が姿を現したのと、建物に火災報知器の音が鳴ったのは同時だった。

来週も週の後半あたりでの投稿になりそうです。

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