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第17話 先生の作戦


『すまん! かなちゃんと真島さんが来愛のこと探しに行った……!』


 マジですか……。なんか大事になってない……?


 正直、わざわざ探しに来るとは思っていなかったし、僕1人いないところで誰も気にしないだろうと思っていたが、どうやら2人は違ったみたいだ。


 さすがにここまでは来ないだろうし、早く2人に合流して、戻ってもらわないと――。


 そう考え、僕は、少し名残惜しいが座っていたベンチを後にすることにした。


***


 座っていたベンチのあったところから10分ほど歩いた。


 まだまだ、ホテルが遠くに見えるため、キャンプファイヤーが行われている場所からは歩いてこれない距離ではないが、大分離れているみたいだ。


「早く戻らないと……」


 真島さんもキャンプファイヤーに出たいだろうし、何より宮本先生がいないと盛り上がりに欠けてしまうだろう。


 そう考え、ペースを上げようとした。


 その瞬間だった――。


「上坂くーん!?」


 宮本先生の声がした。


 声が聞こえたため、僕はそちらの方へと駆けた。


「あ、上坂君!」


 真島さんが僕に気づいたようで声をあげた。


 僕は、2人に近づきながら軽くペコリとした。


「もう! 体調が悪いのに1人で出歩くんじゃありません!」


 宮本先生が頬を膨れさせながら言った。


 逆に心配させてしまったか……。違う理由をこじつけておけばよかった……。


「すみません……」


 僕は苦笑いをしながら言った。


「何はともあれ無事ならよかったよ!」


 そう言う先生に、僕は、本当にお騒がせしました、と改めて頭を下げた。


 先生に頭を下げ、顔を上げると真島さんと目が合った。


「真島さんもわざわざごめんね」


「ううん……! 全然気にしないで! 先生が『上坂君を探しに行かないと!』って言って、走っていくのが見えたからただ事じゃないなって思って、私が勝手についてきちゃっただけだから……!」


 真島さんが僕にニコッと微笑みかけてきた。


「それでもだよ。本当に申し訳ないです」


 僕は、真島さんに笑顔を向けられ、顔が熱くなるのを感じながら言った。


「ううん……! 私がそうしたくて先生についてきただけだから、本当に気にしないで!」


「……あ、ありがとう」


 僕は、真島さんの言葉に気恥ずかしさを感じながらも改めてペコリとしてから言った。


「それじゃ、2人とも戻ろうか……?」


 僕たちの会話が終わったのを見て、宮本先生が言った。


「……申し訳ないんですけど、やっぱり、僕はキャンプファイヤーは参加しないので、急ぎでしたら2人で先に戻ってください」


 今、このタイミングで真島さんと一緒に戻ってしまったら、あの場を抜け出した意味がなくなってしまう。このまま一緒に戻ったら真島さんにキャンプファイヤーで一緒に踊ろうと流れで誘われそうだ。


 迷惑をかけた上でおこがましいが、今から真島さんとキャンプファイヤーに参加する勇気はない。


「うーん。まあ、無理に参加させるつもりはないけど……。先生としては、できれば、見学でもいいから、思い出作りのために参加してほしいな……」


 宮本先生が少し困ったような顔をし、何か考え事を始めた。


 迷惑をかけてしまい、本当にすみません……。


 僕が心の中で宮本先生に謝り倒していると、宮本先生が突然離れたところに小走りで移動し手招きされた。


 先生の様子を見て僕は、なんとなく、先生が真島さんがいる前でしにくい話をしたいのだろうと思った。


「真島さん、ちょっと待ってて……!」


「え……!? あ、うん!」


 僕は、困惑している真島さんを横目に気にしながらも、先生のいる方へ向かった。


***


「どうしました……?」


「えっと、つかぬことを聞くけど、上坂君がキャンプファイヤーに参加したくない理由って真島さんだったりする……?」


 先生が突然的を得たことを言ってきて、心臓が跳ねあがった。


「い、いや、そんなことはないですよ……?」


「見た感じ元気そうだし、お見通しだからいいよ……。最近、クラスの男の子たちみんなに目の敵にされてるもんね……?」


 めちゃくちゃよく見ていらっしゃって……。


 僕は、宮本先生が思っていた以上に自分たちのことを見ているのだな、と思い感心した。


 こうやって生徒のことをちゃんと見ているのも宮本先生の人気の要因の1つなのだろう。


「まあ、そんなところです……。なんか知らないんですけど、真島さんがよく構ってくれて……」


「何てラッキーな。あんなに可愛い子が構ってくれるなんて私が上坂君だったら嬉しくて嬉しくてしょうがないよ」


 羨ましそうな眼差しを宮本先生が向けてきた。


 素直に喜べない複雑な事情があるんですよ……。


 僕は、そう言いかけたが、別の問題に発展しそうで面倒だったため、言葉を飲み込んだ。


「先生までやめてくださいよ……」


「あはは……。ごめんごめん、からかいすぎたよ」


「それで、こんな風に呼び出して、どうしたんですか……?」


 僕が改めて疑問を投げかけると――、


「えっとね、1つ提案があって……」


 宮本先生がどこか自信ありげな様子で言った。


「提案……?」


「そう! まあ、ざっくり言うと、私だけ先に会場に戻って、上坂君は真島さんと一緒にホテルのロビーのところで待機している保健の先生のところに行くって感じなんだけど、どう……? 上坂君のことに関しては、私がみんなにうまいこと説明するからさ」


 確かに、真島さんが宮本先生と一緒に僕のことを探しにいったということは周知の事実だろうし、先生のプラン通りなら真島さんと一緒にいるところを見られずに済む。


「すみません。それでお願いしてもいいですか?」


「了解です! じゃあ、そういうことで!」


 いや、待てよ……。このプランだと……。


 僕は、1点引っかかった点があり、慌てて先生を呼び止めた。


「ちょっと、待ってください……? そのプランなら先生と僕たち3人で一緒に戻るのでいいんじゃないですか……?」


 僕がそう言うと、宮本先生が頭に本当に軽い力で、えい! とげんこつを入れてきた。


「先生には、そんなことはできません! 明らかに先生はお邪魔虫でしょ……? 2人で校外学習の思い出を作ってください!」


 宮本先生の発言を鑑みるに、どうやら、真島さんは僕のことを好きだと思っているみたいだ。


「あ、いや、それは……」


 僕がそう口をまごつかせると――、


「とにかく! 先生はみんなに思い出をできるだけ多く作ってほしいの! こうすれば、真島さんも上坂君も納得のいく結果になると思うから!」


 宮本先生は押し切るように言い、真島さんの方へと戻っていく。


 そんな宮本先生の背中を僕は、慌てて追いかけた。


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