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たった一つの恋  作者: hina
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プロローグ

結婚して半年。

麗と優は、側から見れば、幸せな新婚生活を送っている二人に違いなかっただろう。

ずっとお互いを偽りながら、そうさせてきた。


「優、今日も遅くなりそう?」

「うん、そうだね。」


坂野麗は有名ジュエリーブランドの会長の孫娘であった。

麗は大学を卒業して二年後に優と結婚し、専業主婦をしている。

優は婿養子であり祖父の会社に勤めているが、早朝に出勤しては深夜前に帰宅する多忙な生活を送っていた。


麗は優よりも早く起床して、おかずの多い健康的な朝食を支度をする。

そして二人きりの食事を終えると、優に玄関で鞄を渡し、笑顔で手を振った。


「行ってらっしゃい。気をつけてね。」


ピンクの花柄のエプロンを着る、一回り年下の妻の姿が愛しくてたまらなかった優は、麗の右頬に口づけをして出て行った。

麗は右頬を抑えながら高層マンションのベランダに向かい、優の姿が小さくなるまで手を振って見送った。


優を見送った麗は、ダイニングに戻るとダイニングチェアに深く座り、テーブルの上に項垂れた。

麗は顔を左に向けると、携帯を開き現在の時刻を確認した。


「まだ七時か…。」


麗は大きく溜息をつくと、そのまま目を瞑った。

麗はまだ二十代前半という若さに溢れて容姿も良く、将来有望で優しい夫がいて裕福な生活をしていた。

しかし偽装の結婚生活に、麗は何一つ心が満たされることなんてなかった。


麗は優からの偽装結婚の条件であった、妻は専業主婦になってほしいという条件に縛られ生きている。

二人は子供を作ることは絶対ないため、麗にはこの監獄のような生活が一生続くのだ。


例え自分で選んだ道だとしても、麗は未来を想像すると絶望した。

しかしそんな麗の人生にはたった一つ、光があった。


麗は少し休息を取った後に一通りの家事を終えて、再び携帯を開いて現在の時刻を確認した。


「そろそろ、帰ったかな?」


優を送り出して二時間が経っていた。

麗はある番号に電話をかけた。


「静流、おはようー。今何してる?」

「休憩中だよ、麗。」


それは一日の中で、麗にとって唯一の楽しいひと時である。


静流は研修医で、今年の春から故郷のニューヨークに戻り働いていた。

14時間の時差がある二人がタイミングよく話すことができるのは、麗が夫を送り出して家事がひと段落した昼前で、静流が仕事が終える夕方のこの時間だけであった。


「静流、今日の夕飯は何?」

「寿司。」

「いいね。」

「日本人の教授が学会で賞をもらって。その祝賀会なんだよね。」


限られた時間の中で、麗は昨日の出来事をそして静流は今日の出来事を話し、他愛ない話で盛り上がる。

麗が結婚した後も、元恋人同士であった麗と静流はずっと互いに深く想い合っていた。

二人は運命に抗えなかったためにもう二度と触れられなくても、二人の関係をずっと維持することを選んだのである。


「ねぇ静流…。やっぱりなんでもない。」

「麗?」

「お酒はほどほどにね。」


麗は静流に会いたい気持ちを必死で堪え、俯いた。


もう少し上手くやり過ごせていたら互いが望む未来があったのかーと、麗が後悔することは最近はだいぶ少なくなっていた。

結局周りの反対を押し切って駆け落ちをも決断できなかったゆえの結果であることを、麗と静流は受け入れているからだ。


『また夢の中で、静流に会えますように。』


麗は心の中で懇願し、静流との通話を切った。

そして現実の世界に戻されたかのように自分の目の前に浮かぶ、狭い世界に深くため息をついた。


現実に虚しさを感じる麗は、毎日数十分の静流との時間の共有だけが生きた心地を感じていた。


しかし目を瞑れば、二人で何も考えずに無我夢中で一緒に過ごしたあの頃に戻れる。

あの頃は決して幸せなことだけではなかったが、二人で過ごした日々は今を生きる糧になっていた。


二人が出会ったのは二十一年前ー、夢に見る二人が過ごした日々は今から五年前に再会してからのことになる。


この度はご閲覧ありがとうございます☺︎


一見偽装結婚の裏で不貞を図っている二人から始まりますが、タイトルの通り純愛をテーマにしてます!

そんなに長くはなくサクッと読めるとで思いますので、ぜひ最後までよろしくお願いします!

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