余命の交換しませんか
私は公園のベンチでうらびれたスーツに身を包んだ男性の目の前に姿を出した。
「あなたの願い通り、余命を交換いたしませんか」
こう告げるために。
何言ってんのこいつ。では、ありません。
怪しくないし。
そもそも誰がどう見たって、禿散らかしたあなたのようなおっさんより、
私のほうが見栄えがいいですから、私を信用してくれると思いますよ。
もちろん見ず知らずの方限定ですけど。
でも今さ上原さん、
「こんな辛い思いばかり続くなら、この残りの命誰かに渡した方が良い」そう考えてたでしょう。
なぜ知っているかですか。
私ね、余命交換する仕事請け負ってるんです。
誰からか?ですか。
命にかかわることですから、あなた方が仰る所謂神様的な存在からです。
ほらほらそんな胡乱な目で人を見ない。
とりあえずと言いながら、無理やり私は男の横に座る。
あなたと話したいことはありますが、別に傍にいたいわけではありませんので、
もう少し間を空けて頂いても構いませんよ。
私たちの会話が他人に聞かれても、
ただの下らないワイドナショーの話に聞こえるように、都合良くしてありますから。
「勝手に隣に座っておいて……」と、
ぶつくさと言いながら、私との距離を少しだけ空ける。
隣に座っていたほうが、話しやすい気がただけなのでそれは仕方がありません。
などと、適当なことを言って話を進めることにした。
それで上原さん。率直に伺いますが、もう余命いらないって事で良いですか。
あ、あとどのくらい生きられるかっていう質問は駄目です。
ルール違反なので。
あとは、そうだな、こちらから何人か、
余命を差し上げて欲しい方のプロフィールをお渡しすることはできます。
こういう方がいたら差し上げてもいいな、っていう意見も伺えます。
「まず、なんで俺の所へ? 」男が尋ねる。
人の話こいつ理解できないのかよ。
「仮に余命交換が仕事だとして、なんで俺なんだよ」
ぶっきらぼうな態度をとる上原。
人生長くなればいいのにって思う方は多いんです。
その逆で、もう充分生きたからと、
思う方はいらしても残りを人に差し出そうと思い至る方は少ない。
だからさ、割と重要な申し出ですし、前々から目を付けていてリサーチしていたことは否定しません。
他人の不幸を楽しみやがってみたいな目、してらっしゃいますね。
これ考え出したの私じゃないんで。
他界後に閻魔に会ったら閻魔様にお伝えください。
宗教的に天使なら天使でも良いです。
私の上司みたいな人たちは、わりと下界より緩いんです。
その話をし始めると長くなりますから、話し戻しますね。
3人ほどピックアップしたんですけどご覧になりませんか。
そう言いつつ私がノートをめくる動作をすれば、
手にノートが現れ、軽いモザイクのかかった人の顔と仮名や簡単なプロフィールが現れる。
まず一人目は、ベッドに座り本を読む少女。
この方に関してはあまり説明は無いと思いますが簡単に。
生まれながらに体が弱く、「普通に」生きたいと願っています。
二人目は中年に差し掛かるのではないかと思われる女性。
この方自身は健康状態が悪いわけではないのですが、
「私が他界したらこの子を誰が面倒見てあげるのだろ」と、
ご子息に対し思っていらしている方です。
三人目は、ちょっと待って下さいね。
私は内容が勝手にすり替えられていることに気づき、
あたふたしながら話しを続ける。
こちらのご高齢の男性は、長年埋蔵金に「さぁこ?」
ノート見てないと思っていたら、このおじさん私のノート見てたいたらしい。
本当は高齢男性の予定だったのに、若い女性にすり替わっていた内容をだ。
あいつら何してくれてるんだと私は心の中で舌打ちをする。
「さぁこ、3カ月後死ぬんですか。本当に!? 」
確かに、この女性の死亡日は本日XX年〇月××日の3カ月後の日付が記載されている。
「そうか、あの男と何年かかってもいいから結ばれたかったのか。
にも関わらず、他の男に命を狙われて他界するだなんて」
だから余命を延ばしたい?
私からすれば妙な表現な気もするが、上原は納得している様子だ。
彼の気持ちは決定したらしい。
「さぁこに残りの命を差し出す。
例え、さぁこが気付かなくても彼女の幸せに貢献できるなら。
どうすればいい?かぁことの余命を交換すると強く願えばいいのか!? 」
鼻息を荒くしながら、まくし立てる上原に私はやれやれと首を振る。
人の話が一切耳に入らない様子でノート取り上げ、
「幸子こと、このページの女性と余命の交換をする!! 」
上原は宣言するとともにページが輝く。
あ、そんな方法で契約できちゃうんだ。
私ですら知らなかったのに、何故だろう。
いや、そもそもなどと考えを巡らせている間に、
意気揚々と上原は席を外し公園から去っていってしまい、
後ろ姿が小さくなる。
私はため息を付きながら彼を見送ることしかできなかった。
〇月××日から1週間後の▽月〇日
若くそれなりに人目を引く女性の後を付ける男性がいた。
後を付けれらていると感じた女性は、恐る恐る振り返り安堵と怒りの表情を浮かべた。
「二度と私の前に現れないと言っていたはずよね!? 」
「さぁこ、これは違うんだ。
俺は君が誰かから狙われているのを知って
「後を付けてくるような卑劣なことをする人何て、
あんたくらいしかいないわよ。上原悟っ!! 」
本当なんだ。君は3カ月後にある男性の車の下敷きに。あれっ!?」
上原の手の刃物が怪しく光る。
「ち、ち、違うんだっ!!俺じゃなくて」
錯乱した様子の男性を目の前にした若い女性からは悲鳴のあと、
あえぐような息遣いが少しづつ小さくなっていった。
ー----
上原の様子が気になり少しだけ監視をしていた私は、
改めて自らのリサーチ内容を確認する。
【上原悟(37) XX年▽月〇日 事故死予定】
会社の部下に懸想し貢も、彼女には本命男性(既婚)有。
彼女から別れを告げられ思い悩み、見返してやりたい気持ちと役に立ちたい気持ちが交差。
XX年は私以外の誰かがXZ年から書き直した様子が残っていた。




